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マングローブの森を歩く、スンガイ・ブロー湿地保護区

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シンガポールの北西部、クランジ地区には、オオトカゲがのらりくらりと歩き、ジージーと耳に心地よい熱帯の蝉の声が響く、ジャングルのような世界があります。それが近代都市国家シンガポールからは想像もできないような自然の宝庫、スンガイ・ブロー湿地保護区。ここからはマレーシアのジョホール・バルに建つビル群がすぐ向こうの対岸に見渡せるのですが、シンガポールにいることすら忘れてしまうほど、豊かな自然が広がっています。国内最大のマングローブの森、その森に生息するユニークな動植物、そして渡り鳥の飛来地でもあるこの一帯は、2001年に国の自然保護区となり、2003年にはシンガポールで初めてのASEAN自然遺産公園にも指定されました。

 

 

 

もの珍しい野生生物との出合いを求めるなら、満潮時

130ヘクタールのスンガイ・ブロー湿地保護区には歩きやすい4ヵ所のウォーキング・ルートが整備されていますが、足早に歩いては何も目に入ってきません。心落ち着けてゆっくり歩いていると、ユニークな野生生物の姿が次から次へと目に飛び込んできます。満潮時になると、普段は干潟の泥上にいる野生生物が水中に住む生物から身を守るため、木の上に登ってきます。マングローブの木を高さ6mまでも登るといわれる木登りガ二や、吸盤状のひれを使って、ジャンプしながら木に張り付くちょっと変わり者の魚、マッドスキッパ―(トビハゼ)。そして全長2mもあるオオトカゲなどが、私たちの目の届くところまでやってきます。また、ここは渡り鳥の休息地としても知られ、その数約230種。渡り鳥は岸辺に舞い降りては羽を休めて餌を探すため、干潮時、特に9月から3月までの川辺はさまざまな鳥でにぎわいます。潮の満ち引きによって景色が異なるのもまた、ここの特徴の一つです。

 

 

私たちの生活をも守る母なる自然、マングローブの森

ビジターセンターを入ったすぐ隣には、この保護区で一番の見どころともいえる、全長500mの遊歩道が伸びるマングローブの森があります。シンガポールには31種のマングローブがありますが、その半数は絶滅に瀕しているといわれています。かつてシンガポール全域の約13%を占めていたマングローブの森は、急速な土地開発が行われた結果、0.5%にも激減してしまったといいます。その残されたマングローブの一部がここには生息しています。
引潮時には泥の中に何本もの根を張る姿が見られるマングローブの森は、自然界だけでなく、私たち人間の生活をも守ってくれている大切な存在なのです。マングローブは汚れた水をきれいにするだけでなく、海岸線の侵食を保護しています。最近では津波の被害を軽減する自然の防波堤としてもその価値は認められています。また、マングローブの森は魚やカニなどの野生生物にとっての住処であり、実や花は鳥たちの食糧にもなります。この森独自の食物連鎖によって生態系が守られているのです。
しかし最近では、週末になると多くの人が訪れ、ゴミが目立つようになりました。海から流れてくる浮遊物も増え、ビニール袋やストローなどが生態系に影響を及ぼしているといいます。水に浮かぶビニール袋をクラゲと勘違いしてのみこんでしまうカワウソやワニ、魚などが犠牲になっているからです。
スンガイ・ブロー湿地保護区の守り人の一人、マネージャーのマンディス・タンさんは言います。
「普段の生活の中でも、プラスチック製品の使用を減らし、リサイクルをするなど、環境保全に真剣に取り組むべき時が来ています。便利な暮らしを追求するだけでなく、エアコンは極力使用しない、使っていない電気の主電源を切るなど、小さなことからでも始めないと」。
ひなたぼっこを楽しむオオトカゲの横顔を見ていると、この自然の未来は私たち一人ひとりの手に委ねられているのだと感じられずにはいられません。