天高く舞う鷹や鷲――中央アジアやモンゴル高原が起源と伝えられている鷹狩を、シンガポールで披露しているところがあります。カラフルな鳥たちの楽園として観光客にも人気のジュロン・バードパークの猛禽類のショー、その名も「Kings of the Skies」。食物連鎖の頂点に立つ、肉食の猛禽類を巧みに扱う人と鳥たちが見せる凛々しくかつ迫真の技が繰り広げられています。
予測不可能な野生動物との間に築く信頼関係
現在ショーで見られる猛禽類は、鷹、鷲、フクロウ。もともと野生であったり、他国から搬送されてきたりとさまざまな背景や性格を持つ鳥たちです。調教の前に、最初にしなければならないのは、鳥の信頼を得ること。鷹匠として、またショーのプレゼンタ―として25年も活躍するベテランのクラレンスさんは、「鳥の信頼を勝ち取ることが最も大切ですが、実はこれが一番難しい」と語ります。鳥の信頼を得るためにまず、何もせず鳥のそばにただ座って15〜20分過ごします。最初は興奮して奇声をあげたり、威嚇したり、飛び回ったりしても、決して動じず、忍耐強く待つだけ。それを何度も繰り返すことによって、次第に鳥たちはその人間が敵でないと判断するようになり、その人間の存在にも少しずつ慣れていくそう。一旦、鳥との間に信頼関係が生まれると、調教もスムーズに行うことができます。とはいえ、もちろん調教にも根気が必要です。一般的に調教の期間は、鷹や鷲で1〜1ヵ月半程度、気が散りやすく集中できないフクロウは、3ヵ月ほどかかるのだそうです。
餌掛けの下に隠れた鷹の爪痕
バードパークの「鷹狩」はショーですが、猛禽類の扱いは真剣勝負です。あるとき、調教中に鷲が興奮して、鉤爪を餌掛け(保護手袋)を貫通するまで突き刺して離さないという事故が起こりました。一度獲物を捕まえると死ぬまで離さないというその鉤爪の力はとてつもなく強力。激痛に耐えながら心を落ち着かせると同時に鷲をも落ち着かせ、数人がかりでその鉤爪を一つ一つ外したそうです。クラレンスさんの左腕に残っている痛々しい爪跡が多くを物語っています。堂々たる振る舞い、カザフ族の鷹匠のようなまっすぐな眼差しから、猛禽類と関わり合うことで生まれた、自然や野生動物への愚敬の念を感じさせます。