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24時間365日市民の生活を守るセントラル消防署を訪ねて

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火災発生や救急車が必要な時、シンガポールでの緊急電話番号は「995」(警察は「999」)。その先に控える消防署は、シンガポール市民防衛庁(Singapore Civil Defense Force:SCDF)に所属します。SCDFは消防、救援救助、緊急搬送などの業務や、火災予防、市民保護に関する規則を策定し実施する機関で、5,500人を超えるSCDFの隊員とスタッフがいます。

島内の消防署は全部で7つあり、セントラル、イースト、ノース、サウス各地区に管轄を分け、緊急電話を受けると島内どこへでも8分〜11分で駆けつける体制が敷かれています。SCDFのレポートによると、1997年には年間6,705件あった火災も2013年には4,136件と年々減少傾向にあり、けが人なしで鎮火する率は96.5%。迅速かつ効率的な対応が数字からも伺えます。

ただ、シンガポールは直接的な地震、台
風などの自然災害が少ない一方で、高層ビルが林立し高度に都市化された街。そうした環境や薬品工場など危険物を扱う生産現場が災害を導くリスクは否めません。

 

 

防災や緊急対応の周知を目指すオープンハウス

 

赤レンガに白い縁取りの建築デザインが特徴のセントラル消防署は、シンガポール最初の消防署として1909年に完成。後に監視塔や新館が増設され今でも現役です。はしご車やポンプ車、救急車などを車庫に待機させ、隊員たちが24時間体制で有事に備えています。毎週土曜日の午前中はオープンハウスとして一般公開され、消防署の中に入り朝9時と10時からの2回、消防・救助隊員によるガイダンスや出動のデモンストレーションを見学できます。毎週多くの家族連れでにぎわい、子供たちは本物の消防車の前で目を輝かせます。耳をつんざくようなアラーム音とともに消防隊が出動する様子は臨場感満点で大人でも息をのむほど。

消防隊員の養成には、一般からの志願を募るほか、国民の義務である兵役で市民防衛の部署に配置されて加わります。それぞれ専門機関で3ヵ月の訓練を経て消防士となります。更に3ヵ月訓練を受けると部隊の司令官候補となり、「我々が市民の生活を守る。日夜この仕事に従事することにプライドを持っています」と、ユニフォームが似合う若き軍曹、スハイミさんは胸を張りました。

 

 

「ライオンハート」災害救援隊、世界の被災地へ

 

あまり知られていないものの、シンガポールには2つの特殊救援部隊があります。ビル倒壊などの大事故のレスキュー作業に当たるDART(Disaster Assistant Rescue Team)と、石油精製や薬品工場などで特殊火災や事故の処理に出動するHAZMAT(Hazardous Material)部隊。厳しい訓練を経て選ばれた消防士だけが入隊でき、国内外で技術を身につけた精鋭として若い消防士たちから羨望と尊敬を集める存在です。セントラル消防署内に併設された市民防衛ヘリテージギャラリーでは、彼らの活躍の様子を描いた展示もあります。国連の国際捜索・救助諮問グループ(INSARAG)からも公式にUSAR(都市型捜索救助隊)として認められており、2009年にインドネシアのスマトラ島沖地震、2011年にニュージーランドのクライストチャーチで起きたカンタベリー地震、東日本大震災などに出動しました。

DARTを引退しギャラリーでガイドを務めるS.セガールさんは、DART現役時代に自分が訓練した救助犬とカンタベリー地震の救援に参加。がれきの下から生存者を発見するなど活躍しました。「人命を助ける使命に国境はない。次世代のリーダーたちを育成するために自分の経験が活かせたら」と言います。

ギャラリーの1階には、1906年当時蒸気エンジンで動いた消防車や、水タンクを搭載する以前、川から水をくみ上げて消火にあたった時代の消防車が美しく磨かれて展示されています。歴代の消防士や救急隊員たちの誉れ高きプライドを映すかのようです。