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銀色に輝く新たなランドマーク。シンガポール・スポーツ・ハブ

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総事業費13億3,000万Sドル(約1,090億円)を投じた「シンガポール・スポーツ・ハブ(Singapore Sports Hub)」が、6月末、一部開業しました。カラン地区のマリーナ・ベイに続くカラン川河口に接する、35ヘクタール(サッカー場およそ50面分)の敷地には、銀色に輝く開閉式ドームの新国立競技場(National Stadium)を中心に、アクアティックセンター(プール)や室内競技場、図書館、ショッピングセンターなど多数の施設が、所狭しと立ち並んでいます。

 

 

2007年の閉鎖までナショナル・デー・パレードなどに使用されていた旧国立競技場の再開発として計画され、開業まで約13年がかりという長期事業となりました。水上スポーツ施設などの建設は現在も続いており、全施設が完成し正式オープンするのは来年の予定です。

 

都市とつながる開閉式ドーム

メイン施設は、世界最大直径の屋根付き無柱ドーム、新国立競技場(屋根全閉時の高さ82.5m、直径310m、最大約5万5,000人収容)。設計担当者の1人、DPアーキテクツのシニアダイレクター、テオ・ハイピン氏は「すべてが前例のないチャレンジだった」と振り返ります。

 

 

吊り下げ構造の屋根は、中央から左右に分かれてスライドし、約20分間で開閉可能です。屋根には約19mmの薄い鉄板が使われていますが、重量を減らすため可動部の鉄板はさらに約6㎜にまで加工されました。

 

 

開いた屋根を通して、競技場内部から川の向こうに見えるのは、マリーナ・ベイ・サンズやシンガポール・フライヤー、立ち並ぶ高層ビルなど、シンガポールの街中。テオ氏は、「眺望が良いだけでなく、競技場内の活気や熱気が川の水面を渡って都市とつながるため」と、その設計意図を説明します。

 

 

一方、屋根の外側には、1平方メートルあたり2万個のLED電球が埋め込まれた、世界最大の屋根型スクリーンも設置されました。映し出さされるのはシンガポール国旗。ナショナル・デーなどの機会には、光の国旗が屋根ではためく様が見られるそうです。

 

 

競技に合わせて3つのモードに変わる観客席

観客席にも、赤と白のシンガポール・カラーが使われ、緑の芝生と鮮やかなコントラストを織り成します。

 

 

競技場の近くから天井へ、すり鉢状に設けられた観客席は、必要な広さが異なるサッカー、ラグビー、陸上競技、クリケットの各競技に対応し、最前列の位置を前後に動かせる画期的な仕組みが取り入れられました。その仕組みは、観客席の一部を地下に収容し、前方の席を滑らせて後方に下げるというもので、この設置の変更は48時間で完了します。競技スペースが最も狭いサッカー・ラグビーモードから、最も広い陸上競技モードに変更すると、最前列の座席が約12m後退することになります。

 

 

この設計などを手掛けたアラップ社のアソシエイトダイレクター、クライブ・ルイス氏はその狙いを「観客が間近で観戦できるように」と解説します。さらに、23度の冷気が足元から送られる、エネルギー効率の高い空調システムも兼ね備えており、その複雑な設備システムに腐心したとのこと。クライブ氏は、現在、2020年開催予定の東京オリンピックのメイン会場となる、新国立競技場(新宿区霞ヶ丘町)の設計にも携わっています。

 

 

スポーツを愛する皆のために

一般の人々が日常的に利用できるパブリック・スペースとしての機能も。例えば、新国立競技場の円周を取り囲む「スポーツ・プロムナード」はその1つ。雨や太陽光をしのぐひさしがついた涼しい半屋外空間ではジョギングやサイクリングなどを自由に楽しめます。近隣で都市再開発庁(URA)による新たな住宅開発計画もあり、テオ氏は「新国立競技場までの動線は新たなアクティビティの場所になる」と、期待を込めて話しました。