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シンガポールのデザインと日本の物づくり「デモクラティック・ソサエティ」

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デザインやアートなどコンテンツを生み出す分野において、世界的に見るとシンガポールは後発で未成熟であると思われがちでした。しかし2000年以降、クリエイティブ産業を国内で育てるための教育インフラの整備や、様々な助成などによる政府の取り組みが功を奏してか、近年ではそのステレオタイプのイメージを覆す好例が数々見られます。そのうちのひとつが、「デモクラティック・ソサエティ(DS)」ブランドの品々。特に今年3月に発売開始したばかりの1枚の皿はこれまで1,300枚を売り上げ、次回入荷まで予約待ち多数の人気ぶりです。

 

「デモクラティック・ソサエティ」ブランドの有田焼

直径24cmほどの丸皿にシンガポールならではの名所、食べ物、歴史的な象徴など65のアイコンを盛り込んだ「ワン・シンガポール」がその皿。デザインをはじめ加工や仕上げの良さにも納得の一品です。プロダクト・デザイナーで起業家のエドウィン・ロー氏らがプロデュースするDSブランドの磁器シリーズのひとつで、シンガポール人の若手デザイナーらがデザインをし、佐賀・有田焼の職人たちが製品化しました。シンガポール国立公文書館の協力を得て65のアイコンひとつひとつを写真入りで解説する冊子も付いています。

 

 

DSでは、磁器のほか「うすはり」の技術で知られる松徳グラスや染色加工工場マルジュウなど、日本のさまざまな伝統工芸の生産者とも同様のコラボレーションを実現し、それぞれシンガポールらしい図柄をあしらったオリジナルの製品を開発してきました。これらがシンガポールを代表する「おみやげ」のひとつになって欲しいとエドウィンさんは言います。「シンガポールの外交官が他国への記念品としてシンガポールのブランドのマッサージ機器を贈ったという事実にげんなりしたことがある。悪くはないですが、それではシンガポールがどういう国かを伝えることにはなりません。次世代の子供たちがシンガポールの歴史や文化を知るきっかけになるようなものでなくては」。

 

 

メイド・イン・ジャパンへのこだわり

DSがその生産地を日本とするのは、技術と品質が確かで厳しい品質管理をパスしたものだけが納品されることと、生産者と顔を合わせて実現したいことをとことん話し合える関係性が持てるから、とエドウィンさん。「シンガポールでデザインはできても、国内製造は技術や設備の面でかなり難しい。ベストなデザインを製品化するにはベストな生産者が必要です」。

 

 

またエドウィンさんは、このビジネスモデルで日本の伝統を受け継ぐ中小製造業における後継者不足や生産量の減退の流れにも一石を投じたいとも。海外からの視点で異なるデザインや用途を提案することで日本の伝統技術や工芸品の新しい一面を引き出せて、多民族多文化が集まったシンガポールなら世界展開のために市場を試すことも可能、というわけです。日本の生産者とのコラボレーションの立役者となったビジネス・コーディネーター、大谷啓介さんと共に、各国の消費者の目を引くウェブサイトの構築やロゴのデザインなど、世界に通用するブランディングも同時に進めています。

 

 

このDSブランドが生まれたのは、2年前にエドウィン夫妻が始めた「supermama(スーパーママ)」というセレクトショップ。今や若手デザイナーたちのスタジオとしても機能する場となり、先に紹介した品々を含め、所属するデザイナーたちが日々商品開発を進めています。彼らは同店の運営も担当し経営のセンスを身につけつつ、日本の生産者訪問など良質のものを見極める目とこだわりを学ぶ機会もあるとか。次世代に繋がるボーダレスなプロダクトデザインの新潮流と期待せずにはいられません。