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ムスリム・インド系移民が伝えた、甘い味わい「Teh tarik(テ・タリ)」

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リトルインディアやアラブストリートを始めとして、街中のほとんどのコーヒーショップやホーカーで買うことができる甘いミルクティー「Teh tarik(テ・タリ)」。人気のストールの様子を見ていると、椅子に腰かけてゆったりとお喋りを楽しむ人々から、ストローを差した袋に注いでもらい、急ぎ足で仕事場に向かう人々までいて、幅広いシチュエーションで買い求められていることがわかります。温かいお茶ながら、ほんのりスパイスが効いていて、灼熱の太陽が照りつけるシンガポールでも飲みやすいのが愛される秘訣なのでしょうか。

 

起源はイスラム教徒のインド系移民

 

テ・タリは、マレー半島に渡ったイスラム教徒(ムスリム)のインド系移民が伝えたとされています。第2次世界大戦後、ゴム農園などで働くため、主にインド南部・タミル地方などからシンガポールを含むマレー半島各地に移り住んだ人々のために、道路わきに簡素な飲み物の屋台を出したのが始まりとか。紅茶は水から煮出すため、高級な大きい茶葉よりも、むしろ細かく砕かれたものが好まれたそうです。その後、人種や国籍を超えて幅広く愛され、テ・タリは現在ではシンガポールやマレーシアで国民的な飲み物と称されるまでになりました。マレーシアでは、アクロバティックな紅茶の注ぎ方のデモンストレーションを競う、競技大会まで開催されているそうです。
テ・タリを始めとした、ムスリムのインド系マレー人の文化は、タミル語で敬意を含んだおじさんという意味の「Mamak(ママ)」と呼ばれます。朝食として人気の「ロティ・プラタ」や、「ムルタバ」、「ナシ・レマ」などもこの文化に属するものです。

 

ハイライトは紅茶を引く(タリ)動作

 

何といっても、テ・タリの一番のハイライトは、2つのカップを使い、高い場所から注いで泡立てる独特の入れ方でしょう。リトルインディアのテッカ・マーケットで1978年から店を構えているというムスリム・インド系シンガポール人、オマル氏に、作り方を解説してもらいました。

 

 

小さなストールには、大きなポットに煮出した濃い目の紅茶が常に用意されています。紅茶を透明なカップに注ぎ、まずはお湯で薄めます。そこに、甘い練乳を加えてスプーンで混ぜると、準備完了。そこから、カップとステンレスの大き目の器の2つを駆使し、器から器へと交互に紅茶を移しながら混ぜるとともに、空気を含ませ冷ましていきます。ポイントは注ぐ側の器を低いところから高いところまで「引く」動作とのこと。マレー語で引くという意味の「Tarik(タリ)」がこのお茶の名前になっているゆえんです。
2、3度繰り返すうちに、紅茶の滝の帯は太くなり、光を反射してビロードのように輝きだします。最後にカップに注ぐと、カプチーノのようにモコモコと泡が立っています。少しぬるめの温度が、ほのかに香るクローブなどのスパイスをより引き立てます。オマル氏は、「特にお客さんが多いのは朝。朝食を食べた後に一服する人が多いかな。ここは観光のお客さんも多いから、日本人も良く来るよ」と話してくれました。

 

 

シンガポールでお馴染みのコーヒー「Kopi(コピ)」と同じく、テ・タリにも様々なバリエーションが存在し、好みの味に調節してもらうことができます。甘さ控えめの無糖練乳(エバミルク)を使用した「Teh-C(テ・シー)」、ミルクなしで砂糖を加えた「Teh-O(テ・オー)」、ミルク・砂糖なしの「Teh-O-kosong(テ・オー・コソン)」、ショウガを加えた「Teh-halia(テ・ハリア)」、氷で冷やした「Teh-peng(テ・ピン)」――などが代表的な例です。また、若者の間では、コピとテ・タリを半分ずつ混ぜる「Yuan-Yang(ユアン・ヤン)」という飲み方も人気だとか。

 

 

多くのストールでは、テ・タリの価格は1杯1Sドル程度。高級ホテルのアフタヌーンティーから、道端の簡素な椅子で楽しむテ・タリまで、同じ紅茶ながら楽しみ方の幅が広いことも、多様な文化が混在するシンガポールの味わいと言えるでしょう。