リトルインディアやアラブストリートを始めとして、街中のほとんどのコーヒーショップやホーカーで買うことができる甘いミルクティー「Teh tarik(テ・タリ)」。人気のストールの様子を見ていると、椅子に腰かけてゆったりとお喋りを楽しむ人々から、ストローを差した袋に注いでもらい、急ぎ足で仕事場に向かう人々までいて、幅広いシチュエーションで買い求められていることがわかります。温かいお茶ながら、ほんのりスパイスが効いていて、灼熱の太陽が照りつけるシンガポールでも飲みやすいのが愛される秘訣なのでしょうか。
起源はイスラム教徒のインド系移民
テ・タリを始めとした、ムスリムのインド系マレー人の文化は、タミル語で敬意を含んだおじさんという意味の「Mamak(ママ)」と呼ばれます。朝食として人気の「ロティ・プラタ」や、「ムルタバ」、「ナシ・レマ」などもこの文化に属するものです。
ハイライトは紅茶を引く(タリ)動作
小さなストールには、大きなポットに煮出した濃い目の紅茶が常に用意されています。紅茶を透明なカップに注ぎ、まずはお湯で薄めます。そこに、甘い練乳を加えてスプーンで混ぜると、準備完了。そこから、カップとステンレスの大き目の器の2つを駆使し、器から器へと交互に紅茶を移しながら混ぜるとともに、空気を含ませ冷ましていきます。ポイントは注ぐ側の器を低いところから高いところまで「引く」動作とのこと。マレー語で引くという意味の「Tarik(タリ)」がこのお茶の名前になっているゆえんです。
2、3度繰り返すうちに、紅茶の滝の帯は太くなり、光を反射してビロードのように輝きだします。最後にカップに注ぐと、カプチーノのようにモコモコと泡が立っています。少しぬるめの温度が、ほのかに香るクローブなどのスパイスをより引き立てます。オマル氏は、「特にお客さんが多いのは朝。朝食を食べた後に一服する人が多いかな。ここは観光のお客さんも多いから、日本人も良く来るよ」と話してくれました。
シンガポールでお馴染みのコーヒー「Kopi(コピ)」と同じく、テ・タリにも様々なバリエーションが存在し、好みの味に調節してもらうことができます。甘さ控えめの無糖練乳(エバミルク)を使用した「Teh-C(テ・シー)」、ミルクなしで砂糖を加えた「Teh-O(テ・オー)」、ミルク・砂糖なしの「Teh-O-kosong(テ・オー・コソン)」、ショウガを加えた「Teh-halia(テ・ハリア)」、氷で冷やした「Teh-peng(テ・ピン)」――などが代表的な例です。また、若者の間では、コピとテ・タリを半分ずつ混ぜる「Yuan-Yang(ユアン・ヤン)」という飲み方も人気だとか。
多くのストールでは、テ・タリの価格は1杯1Sドル程度。高級ホテルのアフタヌーンティーから、道端の簡素な椅子で楽しむテ・タリまで、同じ紅茶ながら楽しみ方の幅が広いことも、多様な文化が混在するシンガポールの味わいと言えるでしょう。