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意外なヘルシー食材、カエルに出会う小旅行

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「シンマ・ライブ・シーフード(Sinma Live Seafood)」のフロッグポリッジ。プレーンな白粥とともに頂くのがシンガポールの定番スタイル。

 

シンガポールに来て間もない頃、中華系のローカル料理店で炒め物を注文したことがあります。ガラスケース内の料理を指差して包んでもらい、家に持ち帰ってさっそく食べ始めると、豚肉にしては色が白く弾力があり、鶏肉にしては柔らかな噛みごたえ。不思議に思ってこの話を知人にしたところ、「あの店の看板にある中国語の『田鶏(ティエンジー)』ってカエルの肉のことだよ」と教わり、ギョッとしました。

 

魅力のひとつは栄養価の高さ

真っ赤な炎でグツグツと煮込まれるフロッグポリッジ。「エミネント・フロッグポリッジ」では、調理場に近づくだけでも汗が吹き出すほど。熱いうちに客に出すのが鉄則なので、調理人の動きは素早い。

ジュロン・フロッグファームでは水辺の生き物の生態を学ぶスタディツアーが開催されている。子どもだけでなく大人にも好評(写真提供:Jurong Frog Farm)。

 

日本では馴染みの薄いカエル料理ですが、シンガポールでは中華系のシーフードやお粥の専門店で見かけます。食用ガエルが「田鶏」と言われる由縁は、鶏のささみに食感が似ているからだとか。しかし、鶏肉も容易に手に入るのに、なぜカエルを食べるのでしょう。その理由を探るべく、シンガポール唯一のカエル養殖場、ジュロン・フロッグファーム(JFF)を訪ねました。

MRTクランジ駅を出発し、左手に広大な貯水池、右手にマレーシアを見ながらバスに揺られること20分。農園や牧場などが点在する緑豊かなクランジ・カントリーサイドの一角に、約1万5,000匹のアメリカウシガエルを飼育するJFFがあります。到着すると、小屋の中からブーン、ブーンという機械のような連続音が。近づくとそれはカエルの大合唱でした。訪れた時はどんよりとした曇り空。雨が近づいて湿気が高まると、カエルは心地よくなり鳴くのだそうです。

JFFでマネージャーを務めるチェルシーさんに、カエル料理の魅力を尋ねました。「何と言っても味だけど、栄養価も高いのよ」。カエル肉は低脂肪、高タンパクで、同量の鶏ムネ肉と比べるとカロリーは約3分の2。さらに漢方では、肺や呼吸器の機能を高めるため、喫煙者の健康管理を助けるといわれています。

JFFでは2014年10月にネットショップをオープン。カエル肉は主に下処理を済ませた冷凍パックで出荷し、調理しやすいモモ肉や、スープなどに適した全身(骨なし)など数種類を販売しています。また、「手軽に栄養を取るならハシマがおすすめ」とチェルシーさん。ハシマとはカエルの卵管を乾燥させた高級食材で、クコの実などと一緒に煮てスイーツにすることが多いそう。呼吸器や免疫システムの機能強化といった効果に加えて、肌の再生を促すとされるコラーゲンやアミノ酸、女性ホルモンのエストロゲンに似た作用を持つ成分が多く含まれています。

 

一風変わった「シーフード」

ハシマを使ったスイーツは香港などでも人気。美肌効果が期待できるという(写真提供:Jurong Frog Farm)。

 

和食と比べると、ローカル料理は油が多く味付けが濃く、体に良くないと思われがち。けれども調べてみると、カエルは栄養価が高く、美食の国フランスでも高級食材として扱われていることがわかりました。そこで何とか抵抗感を乗り越え、俳句に倣って、ローカル料理という古池に思い切って飛び込んでみることにしました。

ゲイランの有名店「エミネント・フロッグポリッジ(Eminent Frog Porridge)」。開店直後の午後6時に訪れるとまだ空いていました。名物のカエル料理を食べたいと言うと、マレーシア出身の店員サン氏は「見るかい?」と生きたままのカエルを水槽から取り出してくれました。驚いて身を引くと、隣にはカニの水槽が。両者を並べて見てみれば、確かに色も似ているし、仲間に見えなくもありません。シーフード料理店で扱われているのも合点がいきます。

鍋にたっぷりのソースとカエル肉を入れて、炎がはみ出すくらいの高温で、細かい大量の泡を立てながらグツグツ煮込みます。オイスターベースのソースに生姜、ネギ、ニラの風味が溶け込んだ強めの味付け。胡麻油と塩の効いたシンプルなお粥と一緒にいただきます。ぷりぷりとした弾力、骨離れの良さは、まるで鯛などの白身魚を煮込んだ時のよう。お粥とともにどんどん箸が進みます。

そうこうしているうちに辺りは暗くなり、1人で夕飯をとる男性客や、陽気に酒を飲む数人のグループ客がいつの間にか店内に増えてきました。「午前4時まで営業しているから混むのはこれからだよ」とサン氏。シンガポールの夜の風景は、日々美味しいものを探し求めるシンガポーリアンの情熱で彩られているのでしょう。