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天に響く太鼓、チームで力いっぱい漕ぐパドル「ドラゴンボートレース」

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ラマーの太鼓に合わせて漕ぎ手が揃ってパドルを動かす。競うボート同士がぶつかることなく最短距離でゴールを目指すために舵取りが前を見据える。見ているだけで興奮が伝わってくる。(写真提供:Jimmy Goh)

 

旧暦5月5日は端午節。中華圏では「ちまきの日」や「ドラゴンボートの日」とされ、5月下旬から6月に各地でドラゴンボートレースが開催されます。シンガポールでも国内最大規模のドラゴンボートレース「第4回DBSマリーナ・レガッタ」が5月30日からマリーナベイで開催され、国内外から約3,000人約140チームが参加します。さらに今年は東南アジア競技大会(SEAGAMES)のドラゴンボートレースも同時期に開催されることで例年以上の盛り上がりが期待されています。

屈原の伝説から生まれたドラゴンボート

ナショナルドラゴンボートチーム(N-Team)の精鋭たち。世界ドラゴンボート大会や東南アジア競技会にシンガポールの代表として出場している。(写真提供:SDBA)

 

ドラゴンボートの起源は約2300年前、中国の楚(そ)の国王の側近だった屈原(くつげん)の伝承にさかのぼります。屈原は人々の信望を集めた政治家でしたが陰謀によって失脚し、故国の行く末に失望して汨羅江(べきらこう)に身を投げます。楚の人々は小舟で川に向かい、太鼓を打ってその音で魚を脅し、屈原の体を魚が食べないようにちまきを投げました。その命日が中国の年中行事となり、へさきに竜の飾りをつけた小舟のレースが行われたり、屈原を惜しんで多くのちまきを川に投げ入れ、国の安泰を祈願する風習も生まれたといいます。これが今日のドラゴンボートとちまき(肉粽)の始まりであり、その風習は、病気や災厄を除ける大切な宮中行事、端午の節句となりました。三国時代(184-280年)に端午節は、魏(ぎ)の国により旧暦5月5日に定められ、やがて日本にも伝わったそうです。

長い間中華圏の伝統行事だったドラゴンボートは、1976年に香港が初の国際レースを開催したり、各国との親善活動に重用したことで世界的なウォータースポーツとなりました。1991年に国際ドラゴンボート連盟が北京に設立され、国際ルールも整備されたことで世界70ヵ国以上の国々に広まり、2008年の北京五輪では公開競技となったことを受け、今後正式種目にという声も上がっています。

 

チームスピリッツがドラゴンボートの魅力

SDBAの副会長でドラゴンボート歴30年のジョン・マクグラスさん。自身もオーストラリア商工会議所(AusCham Singapore)チームの現役パドラー。
ジャパンドラゴンの皆さん。1999年に結成し、現在35名のメンバーがいる。日本人に限らず国際色豊か。随時体験パドリングを受け付けている。
問い合わせ先:jdragonboat@googlegroups.com

 

全長12mほどのスタンダード艇では、20人のパドラー(漕ぎ手)、太鼓を叩くドラマーと舵取りの合計22人が200m、500m、1000mコースのゴールを目指してそのスピードを競うドラゴンボートレース。

「だれがヒーローというわけでなく、性別、年齢を問わず20人で一つの舟を漕ぐ一体感。全員の漕ぎがそろい、チーム一丸となって前へ。舟が進むときの爽快感は他のスポーツではなかなか味わうことができません」と、在星日本チームのジャパンドラゴンズの副キャプテンでドラゴンボート歴2年半の横内奈緒さん。国内の公認機関であるシンガポールドラゴンボート連盟(SDBA)には、現在120ものチームが登録されており、日本を含め9ヵ国の企業や団体も含まれます。各チームで活動する人の合計は5,000人を超えているとか。SDBA副会長のジョン・マクグラスさんは、「チームが揃って練習した後は、皆でイーストコーストパークでバーベキューをするなど毎回親睦をはかっています。水上でも陸上でもチームスピリッツの醍醐味が味わえる。企業のチームビルディングや学生の課外授業としてドラゴンボート体験が取り入れられる所以もそこにあります」とその魅力を語ります。

今後は、SDBA認定のトレーニング修了証を発行するなど安全でパドラーたちが誇れるドラゴンボートを広めていきたいとしながらも、チームが年々増えていく中でボートなどの機材や道具を持たないチームのサポート強化や、十分に練習やレース開催ができる川や貯水池の確保など課題があるといいます。また、国際的には様々な便宜性も鑑みて、現在12人のスモール艇(全長9m)でのレースもメジャーであり、6人のチーム編成の試みなど、規模の縮小化が進むオリンピックでの正式種目採択に向けてもダウンサイジングが必要になるだろうとジョンさん。「現代のライフスタイルに併せて、仕事帰りなどに少人数集まればボートを漕げる身軽さも期待されている。伝統的な民間行事が現代に世界的なウォータースポーツのひとつにまでなった好事例、ますますパドラー人口は増え続けるでしょう」。