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熱帯綺羅

2015年6月1日

歴史の伝承人としての使命 国立博物館「リー・クアンユー回顧展」

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国立博物館の2階に設けられた「In Memoriam: Lee Kuan Yew」のエントランス。若き日のリー氏の写真が来場者を出迎える(写真提供:シンガポール国立博物館)

 

2015年3月23日、シンガポール建国の父であるリー・クアンユー元首相が逝去しました。その2日後の3月25日にシンガポール国立博物館で始まったリー氏の回顧展「In Memoriam: Lee Kuan Yew」。当初は4月26日まで1ヵ月のみ開催予定でしたが、来場者が多く順番待ちの列が連日できたことなどから、3回の会期延長という異例の対応を経て現在も展示は続いています。開始から2ヵ月が経った今も来場者は絶えず、5月中旬には総来場者数が9万人を超えました。リー氏ゆかりの展示品や写真が年代を追う形で展示されており、彼の歩んできた軌跡がわかる構成となっています。

博物館スタッフ全員が一丸となって開催

p2p3流れるスピーチに足を止め、解説に見入る来場者たち。

 

回顧展の開催を指揮した学芸員のひとりダニエル・サムさん。思い入れの強い展示会になったという。

「リー氏の訃報に際し、シンガポールの歴史を伝える国立博物館の使命として、この展示はやらなければならないと思いました」と語るのは今回の回顧展を指揮した学芸員のひとり、ダニエル・サムさん。博物館職員のうち、誰か1人が「やろう」と決めたのではなく、それぞれの想いから自然発生的に開催が決まったそうです。

とはいえ、準備にかけられる時間は多くありませんでした。国民感情に配慮し、1日でも早い開催が望まれたからです。幸いにも、博物館内には今までに収集した多くの資料や、リー氏に関連する品々が所蔵してありました。それでも足りない資料や音声、映像などはシンガポール国立公文書館(National Archives of Singapore)や新聞や雑誌を発行するシンガポール・プレス・ホールディングス(SPH)などにも協力を求めたそうです。

また一方で展示用のディスプレイケースや写真パネルの準備、回顧展の開催告知など、博物館に携わる全てのスタッフが一丸となって各々の仕事に当たり、逝去からわずか2日後という迅速な開催が可能になりました。これだけの労力をかけた展示ですが、入場料は無料。リー氏を偲ぶ誰もが自由に訪れられるように、との配慮からでした。

その想いに応えるように、回顧展の開催とともに多くの人が国立博物館を訪れ、長い順番待ちの列ができました。グッドフライデーの4月3日には5,500人以上の来場者を記録。現在は少し客足も落ち着きましたが、それでも週末になると30分程度待つこともあるそうです。

リー氏の想いを後世に伝えるきっかけに

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愛用の赤い書類入れ「レッドボックス」(写真左)や、ロレックスの時計(中)、バリスターウィッグ(右)など、リー氏を象徴する品々が並ぶ(写真提供:シンガポール国立博物館)

 

会場内には若き日から現在に至るまで、リー氏の活動を収めた写真パネルのほか、英国で法廷弁護士として活躍した際のバリスターウィッグ、英国当局との賃金交渉に勝利した際にお礼として贈られたロレックスの腕時計、1955年の総選挙に出馬した際のキャンペーンチラシ印刷用のガラス原版などが展示されています。しかし一番の目玉は、リー氏の肉声によるスピーチでしょう。会場内に備え付けられたスピーカーからは国民を鼓舞するリー氏の演説が絶えず流れ、通る人は皆その力強さに足を止めます。熱心に聞き入っていた大学生のジャスミン・オーさんは「彼のスピーチは心に直接語りかけてくるようです。この回顧展は、彼が何を成し遂げてきたか、文字で知る以上のことがわかる貴重な機会だと思います」と話してくれました。

また会期の延長に伴い、新たな展示品も増えました。リー氏が今年2月初めに入院する直前まで傍にあった愛用の書類入れ「レッドボックス」や、国葬時にリー氏の棺の覆いに使われた国旗、リー氏の逝去に際し市民が弔問所に献じたお悔やみのメッセージカードなども展示室の一角に加えられています。カードにはリー氏への真摯な想いが綴られており、彼がどれほど国民から慕われ、支持されてきたかを物語っていました。

3度目の会期延長は6月28日まで。5月30日から6月28日までスクールホリデーになるため、学生など若い世代の来場も期待されています。「この回顧展を通じて、彼がどれだけ強くシンガポールという国を想っていたのかを知ることができる。彼の歴史はシンガポールの歴史。きちんと後世に伝える足がかりとしたいです」とダニエルさんは語ってくれました。

人は死してなお、人の心に生き続ける―。在りし日のリー氏を見つめる人々の眼差しに、その事実を強く感じられる回顧展です。

シンガポール国立博物館 National Museum of Singapore

93 Stamford Road, Singapore 178897

TEL:6332-3659

93 Stamford Road, Singapore 178897

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.281(2015年06月01日発行)」に掲載されたものです。
取材・写真:長島清香

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