2018年12月28日
雇用にまつわる外部環境の変化に要注意~ビザ要件の変更、残業代支給条件の変更など~
日系企業にとって採用環境の変化が著しい昨今。新たな局面を迎えつつあるなか、これまで以上に現地スタッフ数を増やすなど、企業は時代の要請にあった人材採用が求められています。人材サービス関係者がルールや習慣の違いなどのポイントを解説します。
1. 2019年から施行される雇用にまつわる法律
新たに2019年がはじまりました。
昨年はビザ取得要件が厳格化されたり、Jobs Bankの掲載ルールが変更されたりと、人事面での変化に追われた企業も多いのではないでしょうか。
シンガポールにおける雇用にまつわる法律のこれまでを振り返ると、2018年だけに留まらず、このような大きな変化は毎年のように起こっています。2019年も、例外ではありません。
2019年では、現時点で以下の2点が施行されることが発表されています。
・S pass取得条件の厳格化
・雇用法(Employment Act)の改訂
2.S passの取得条件の厳格化
2018年3月に発表されたもので、内容と致しましては2019年から2020年にかけて、段階的にS passの取得条件を引き上げていくというものです。
具体的には、取得に必要な給与の下限が以下のように変更となります。
日本人をS passで雇用される場合は、その賃金は上記金額を既に上回っているケースが多く見られますが、日本以外の外国籍の従業員や、職種によっては上記規制の変更に伴い、給与体系の見直しをする必要が出てくるケースもあるかもしれません。
3.雇用法(Employment Act)の改定
2019年4月から、雇用法(Employment Act)の一部が改定されます。
主に既存の従業員を守る法律の適応範囲が広がる内容となっており、日系企業にて一番身近なものをひとつ抜粋すると、残業代を支払うべき対象の条件が強化された点です。
現在2,600ドルで就労されている従業員に対してはこれから残業代を支給する必要が出てくるので、こちらも同じく給与体系の見直しをする必要が出てくるケースもあるかもしれません。
他にもいくつか雇用法における変更の項目がありますが、内容は多岐にわたりますので、詳しくは人材開発省(Ministry of Manpower)公式プレスリリースをご覧下さい。
4.改定に備えてできる2つのこと
・日頃から社内外のプロと意見交換を
これまで述べました改定のいずれも、例えばEP規制といったような、全企業・全従業員に影響が及ぶような類の規制ではありません。ですが、適応対象者がいる場合は、社内の給与バランスや、予算、採用計画などに影響を与えかねない要素にもなり得ます。
加えて、先述の通り毎年のように法改定が行われているため、これ以外にも、今後どのような改定が新たに告知されるかわかりません。
ビザの厳格化や雇用法の改定に伴い、雇用の難易度、採用後の対応が複雑になってきている今だからこそ、前もって採用計画を考えることがより大切になってくると考えます。
社内の人事担当者や、人材紹介会社をはじめとするプロに、今まで以上に密なコミュニケーションを取り、「採用活動」に入る一歩前からこういった外部環境に変化はないか、情報収集されることをお勧めさせていただきます。
・情報を入手したら、なるべく早くアクションを
これらの改定を仮に知っていたとしても、社内のルールの変更や、給与調整を行うことは、一朝一夕ではできません。
社員が突然辞めてしまい、ただでさえ手が回らないのに採用もしなければならない。そのような状態になってから変更や調整に入ろうとしても、本社への報告、該当社員への告知、給与の引き上げ等、イレギュラーな時間・手間・コストが掛かってしまい、十分な対応が出来なかったり、すべてが後手に回ってしまうことも懸念されます。非常事態に備え、先手のアクションが打てるように準備することが大切かと思います。
5.まとめ
・シンガポールでは、雇用に関する法律が大なり小なり年々変化しています。
・2019年から施行されるものとしては、S-passの基準の底上げや、残業代支給の適応範囲の拡大などがあります。
・日頃から社内外の人事や人材会社とのコミュニケーションを取り、情報収集のアンテナを張り続けて、先手のアクションを練ることを心がけましょう。
お話を伺ったのは…
Good Job Creations (Singapore) Pte. Ltd.
Team Lead
塩崎 拓臣さん
人材業界一筋のコンサルタント。中国・無錫滞在で培った中国語を武器に、日系企業のみならず、ローカル企業の人事課題解決を目指し、日々サポートしています。好きなものはタイガービール。
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.341(2019年1月1日発行)」に掲載されたものです