AsiaX

資格・スキルを活かす就職 [日本語編]

 

「日本語スピーカー」採用の際の留意点

在シンガポールの日系企業にとって貴重な戦力となる日本語に堪能な外国人人材「日本語スピーカー」。実際に採用を考える際に、どのような点を留意すべきでしょうか。人材紹介会社へのアンケート結果を基にまとめてみました。

取材協力:Find Recruit Pte Ltd, God Job Creations Pte Ltd, JAC Recruitment Pte Ltd, Intelligence Asia Pte Ltd, Pasona Singapore Pte Ltd, Reeracoen Singapore Pte Ltd, RGF HR Agent (S) Pte Ltd

必要な日本語能力とレベルを考えた採用活動を

前回(AsiaX12月7日号Vol.293)の本欄で述べた通り、日系企業の多くでは「日常的な日本語を理解し、いろいろな場面で使われる日本語をある程度理解できる」とされるレベルの日本語能力試験(JLPT)N2以上が求められます。しかし、JLPTは読む、聞く能力を測る試験であり、最上位のN1取得者であっても日本語でのコミュニケーションがおぼつかないケースもあるようです。一方、中級程度のN3の取得者でも会話が得意な人もいます。そのため、各企業において読み、書き、会話のどの能力においてどれだけのレベルが必要なのかを考えた採用活動が勧められます。
また、日本語能力と日本の商習慣を身に付けているということは別です。日本特有の「行間を読む」「空気を読む」ことは日本語スピーカーには難しいため、業務内容によって日本人と日本語スピーカー、どちらがふさわしいかを考慮する必要があります。

コスト削減のために採用する時代は終わり

さらに注意すべき点としては、N1取得者や日本の大学を卒業した日本語スピーカーで、就労ビザ取得の必要がない候補者は引く手あまたで、短期間で転職されてしまうというリスクもあります。コスト的にも日本人を採用する場合と同じか、もしくは高くなる場合もあり、コスト削減のために日本語スピーカーを雇うという時代ではなくなりつつあるようです。
概して日本語スピーカーは、日本の文化に親しみを感じ、仕事への意識も高い人が多い傾向にあります。雇う側の日系企業も日本語スピーカーを戦力として育てていくことが求められているといえそうです。

シンガポール就職体験談

日系企業向けの案件では日本語を使用
お客様向けの提案書や報告書も日本語で作成

ASEAN地域の企業向けにシステムインテグレーションやセキュリティソリューションを提供するKYOCERA Communication
Systems Singaporeでシステムエンジニアとして働いています。転職活動時は人材紹介会社のパソナシンガポールを利用しました。
私の会社はスタッフが多国籍なため、社内の共通言語は英語ですが、お客様が日本人の方であるような場合、お客様との間でのミーティングやEメールでのコミュニケーション、および提案書や報告書の作成は日本語で行っています。お客様の業種毎に特有の専門用語があるため、それらを理解して日本語でコミュニケーションをとることは大変だと感じることもありますが、日本語を使うと、日本人のお客様との距離感がぐっと近くなるため、私は積極的に日本語を使うように心掛けています。

大学ではコンピュータ・サイエンスと日本語を専攻 東北大で修士課程を終え、日本で勤務

私はマレーシアのイポー出身で、小学1年生の頃からシンガポールで育ちました。母語は広東語で、シンガポールで中国語(普通話)と英語を学びました。子供のころから父の仕事の関係でよく東京に行く機会があり、和食やJ-POPなどには興味を持っていましたが、日本語を本格的に勉強し始めたのは、豪州シドニー大学でコンピュータ・サイエンスとともにダブルディグリー(複数学位)の1つとして日本語を専攻した時です。在学中には交換留学生として東北大学へ留学し、日本語能力試験1級を取得しました。卒業後は東北大学大学院の修士課程へ進み、コンピュータ・サイエンスの研究をしました。講義は日本語で受け、日常会話も日本語でしていました。
修士課程修了後、ドイツの自動車部品制御メーカーの日本支社で4年間勤務しました。同僚は全員日本人という環境で、日本語力を磨くことができましたが、気軽な日常会話と丁寧なビジネス会話との使い分けが難しく、ビジネスでは苦労しました。
シンガポールの会社の場合、入社してすぐに現場で仕事を始めることが一般的ですが、日本の会社の場合、入社時研修で社会人としての基本的なスキルやビジネスマナーなどを身に付けることから始めます。日本の企業は社員を大切にするという印象を持ちました。趣味で小説やマンガをよく読みますが、それも日本語のものを読むようにしています。村上春樹の『ノルウェイの森』と『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』も日本語で読みました。

Loke Cho Munさん
KYOCERA Communication Systems
Singapore Pte. Ltd.Business Solutions Group Senior Systems Engineer