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2010年12月6日

「真摯さ」という資質

JX Nippon Oil & Energy Asia Managing Director 角南 元司 業種:石油

JXって何?という方も多いと思いますので、まずは簡単なご紹介を。JXは、今年4月1日に、新日本石油(ENEOS)と日鉱ホールディングス(JOMO)が統合してできた新しい石油・金属会社です。日本の製造業では販売額でトヨタに次ぐ二番目の会社、SSの10軒に4軒、すなわち4割が当社ブランドのENEOSになりました。10月1日には当地シンガポールも統合を果たし、新会社JX Nippon Oil & Energy Asiaが立ち上がりました。日本と違ってSSを運営しているわけではなく、B to Bビジネスが主体であるため、馴染みは少ないとは思いますが、以後お見知りおきのほど、よろしくお願いいたします。

 

日本の大手銀行は合併統合が進み、世界のメガバンクと戦う体制を整えてきましたが、石油の世界も同様で、欧米のメジャーや産油国の国営石油会社と伍していくためには規模の力が必要であり、またそこに集う人の力が重要になります。新日本石油は、99年に日本石油と三菱石油が統合して骨格ができあがり、さらに興亜石油や九州石油が順次加わった会社、日鉱ホールディングスは、92年に共同石油と日本鉱業の統合により出来上がった会社、今回その二社の合併で、まさに人材の坩堝のような会社になりました。私など80年代前半に入社した者からすると、まさに隔世の感です。就職活動の際に、研究室の教授から、郷里の岡山や近隣に製油所を持つ三石、日鉱、興亜を勧められながら、それを断って日石に入社したにも関わらず、結局20数年後には全てひとつになった、という皮肉な話で、先のことはNo one knows、没人知道です。

 

しかし何といっても企業は人、合併によりカルチャーやケミストリの違う人種がいっぺんに増えるわけですから、いかに石油産業が装置産業、どこを切っても金太郎飴的企業体質、とはいえど、何度経験しても結構大変なことです。入社時の採用スペックも違えば、能力も違う、その後の経験も違う、そして昨日までの敵だった彼らと今日から机を並べる、となると、確かに曰く言い難いところがあります。しかし統合後の業務目的・目標は明確ですから、経歴の違いをとやかく言っても始まりません。

 

私は決してドラッガーマニアではありませんが、人を評価・判断する上での共通の基準となり得るものは、著書「マネージメント」の中で述べられている「真摯さ」、私なりに意訳すると、「物事に対する率直さ、素直さ」だと思います。ある課題に対してどのように取り組むかは、経験の有無や個々の性格によってもちろん異なりますが、しかしその解を求める過程に人の本質を見ることができます。仮に導き出された結論は同じであっても、周到な準備をし、嘘や妥協を排除し何が正しいかのみによって判断した者の結論は、そうでない者と比べて信頼性が格段に高いことは言うまでもありません。企業の力とは、その資質を持った人間がどれほどいて、その人材をどれほど有効活用しているか、いうことです。

 

専門知識や技能は、企業教育により後天的に身につけさせることができますが、「真摯さ」という資質はある意味先天的なものであり、入社時には既に備わっている必要があります。話は違いますが、私が大学時代を過ごした某マイナー競技系運動部は、高校時代の競技経験者が皆無に近く、また運動未経験者すら何人かいるような部でしたが、後年は何度か日本一の栄誉も獲得するに至りました。ド素人の未経験者集団を日本一にまで導くには、後天的な指導によるところが大ですが、それを達成する選手個々の資質ももちろん必要です。しかし当時、監督・コーチが第一に選手に望んだものは「才能」ではなく「素直さ」でした。恐らく今もコンセプトは同じだと思います。

 

このことは、日本人社員であろうがローカル社員であろうが、同じです。とりわけ我々が当地で行う事業には高度の技術力や特殊能力は要求されません。今は昔の、昭和時代の古臭いスペックかもしれませんが、我々が当地でローカル社員に求めるものも、「真摯さ、素直さ、率直さ」です。この先天的な資質がなければ、その先の企業研修や教育も意味をなさない可能性が高くなります。素直であるか、率直であるかを計り知ることが、採用側の重要な仕事です。私が現職となって以降、数人のローカルを採用しましたが、皆どこに出しても恥ずかしくない、自慢の人材、いや、「人財」に育っています。ご紹介頂いたエージェントの方々に、この場を借りてお礼申し上げます。

 

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.180(2010年12月06日発行)」に掲載されたものです。

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