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2011年10月3日

やらない人材育成&実戦的採用術

トリップスインターナショナル株式会社 Managing Director 中村秀人 業種:旅行会社

 

当社は主に航空券やツアーを販売するアウトバウンドの旅行会社です。日本人顧客向けにサービスを提供しているため、シンガポール人の社員以外に7名の日本人を雇用し、セールスや手配業務に従事させております。ここでは日本人社員に限定しての話とさせていただきます。

 

人材育成に関しては、自分が不勉強であるがゆえ、中途半端なことはやらず、なかば放棄しているも同然です。雇用後に基本的な仕事の段取りは教えます。これは育成というよりも、最低限やってもらわなければいけない業務内容の習得で、それ以上のこと、人材育成という目的で会社側から課題を与えることはまずやりません。基本的な業務をマスターしたら、あとは自分でやりたいこと見つけて、それでお客さんに喜んでもらえて、会社に貢献できるならどんどんやってね、という感じです。そのために相談に乗ること、必要な費用負担をするぐらいはやります。当社のような独立系の小さな組織では、社員は常に時間に追われております。人材育成の専門家でない社長が“育成”と意気込んでない知恵絞っても、ろくなアイデアは出てきません。結果的に、それに振り回される社員が可哀想というものです。その代わり、好きこそものの上手なれ、やりたい事が見出せた社員がなんらかのアクションを起こしたら、その人の背中は押してやるべしという姿勢でおります。人材育成に関しては、いわば受身的なのです。

 

それとは反対に、採用に関しては積極的、独自の方法で臨んでいます。旅行会社は日本では人気がある業界ということもあり、募集をかけるとかなりの数の応募者が集まってきます。書類選考で3、4名に絞り込み、面接はその候補者の住んでいる場所で行うこととします。実際のところ、日本からの応募が多いので、日本まで面接しに行くということです。ポイントは複数の中から選ぶということ。シンガポールで弊社を訪れてくる人を待っていては複数の人から選ぶことはできません。こちらから出掛けて行くほうが、出張経費はかかりますが、選択できるという点では効率が良いのです。
また、不思議なことですが、過去の経験から言うと、シンガポールで行う面接の場合は、相手のことがよく理解できずに、形だけで終わってしまうことが多いのです。話が長くなるので割愛しますが、世間一般でいう「優秀な人」を狙っている訳ではないので、良くも悪くもコミュニケーションの深度が浅いとまず採用には踏み切れません。日本から面接に来る方にとって、シンガポールはもちろん本拠地ではありませんから、構えて堅くなるのが普通です。ノウハウ準備も相当にするでしょうし、また複数の企業を訪問するという状況でもあり、心情的には無意識のうちに武装化してしまうのかもしれません。つっこんだ話をしても、その人の本音までアプローチするのは容易ではない、というのがこれまでの実感です。
ところが日本に行って、その人が住んでいるところ、仕事しているところの近くで会うと、壁が薄くなるのか、かなり深く話を聞かせてくれます。これまで、北は北海道から南は九州まで、面接をしに出掛けました。生まれ故郷や生い立ち、地元で美味しいものの話から始まって、職場での悩みまで素直に打ち明けてくれることもあります。例えていうと、ひと昔前のテレビドラマの刑事もので、犯人の取調べをするのに、ベテラン刑事が故郷の話をしたりして、自白を引き出したりしますが、やっているのはそれに近いのかもしれません。特に地方ですと、一緒に食事をしたり、飲みに行ったりなんてこともあるので、個人的にはそれを楽しみにしている部分もあります。

 

知人は、「日本から騙してシンガポールに連れて来ている。」などと冗談で言うのですが、実際のところはそれと正反対、シンガポールで就労すること、暮らすことに甘い夢を抱かないよう、候補者を諭すことは忘れません。「物価も上がっているし、家賃は高いし、生活するのは大変」、「残業がつきものなのが旅行会社ですよ」、「ご勤務している会社(有名企業)をやめて、うちの会社に来たら、お父さんが悲しみますよ」などとネガティブなポイントはすべて事前に吐き出して、現実を理解した上で決意を固めてもらった方の中から採用を決定します。エンプロイメントパスを取得して、勤務開始後、「こんなはずじゃなかった」ということになりますと、会社にとってもやり直しがきかない痛手です。そのため、夢と希望を与えるよりも、辛いこと、厳しいことをガンガンと先に言うのです。なかにはビビッて引いてしまい、面接直後に連絡が途絶えてしまう方もいて、こちらもガックリということもたまにありますが。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.198(2011年10月03日発行)」に掲載されたものです。

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