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社説「島伝い」

2019年8月26日

「こだわり」か「思い込み」か

 シンガポールのコリビング施設運営業者ハムレット(Hmlet)が今年7月、事業拡大資金として4,000万米ドル(約43億円)を調達したことがニュースになりました。その額は、前回2018年11月の調達額650万米ドル(約7億円)のざっと6倍以上。今回の調達には新たに日本の三菱地所も参加しています。ハムレットは今年中に東京でコリビング施設を開業し、来年以降大阪や名古屋にも進出するとのことです。

 

 ここ数年、特にロンドンやニューヨークで増えている「コリビング」ですが、まだあまりなじみがない方も多いのではないでしょうか。仕事に必要なスペースや設備を共同利用する「コワーキングスペース」と、複数人が一つ屋根の下でリビングやキッチンなどを共有して暮らす「シェアハウス」のいわばハイブリッド版がコリビング。実際にはさまざまな形があり、簡素なゲストハウスのような施設から、スパやジム、図書館、レストランなどを併設し、高級サービスアパートメント並みに設備やサービスが充実しているところもあります。運営会社が複数の都市や国に展開している場合、毎月一定額で各地にある施設を転々としながら暮らし、働くことが可能なコリビングも。暮らしにも仕事にも必要なものが1ヵ所にすべて揃っていることや、同じ場所で暮らし、働く人同士のコミュニティが形成されて、そこでの出会いから新たなビジネスやプロジェクトが生まれやすいことに魅力を感じて、コリビング施設に入居する学生や若手クリエイター、起業家などが増えつつあるようです。また、多くの大都市で問題となっている家賃の高さや、近隣同士でのつながりの希薄さなどを解決する新たな暮らし方としても注目を集めています。

 

 コリビングのような新たなスタイルが広まりだしているのは、こういうものがあったらいいと思う人が少なからずいるということ。時代の変化が認められ、受け入れられていることの端的な表れともいえます。逆に、時代の変化とともに存在価値を失うものもたくさんありますが、自分達自身や商品、サービスがそうならないためには、変化に気づいたら、変化に対応し、新たな一歩を踏み出すことがやはり必要。それでも「ここは変えてはいけない」と考える部分は出てきます。ただ、それがこだわりというもの、と思うのは実は自分だけで、単なる思い込みが邪魔をしているだけの場合もあるのではないでしょうか。実は変えても問題がなかったり、むしろ良い結果を生むこともあるはずです。自分達専用の職場や住居が決まった場所に無いのはありえないと思ったら、一度「コリビング」を試してみるのもいいかもしれません。(千住)

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