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社説「島伝い」

2010年10月18日

付いた火を消さないために

10月15日付の記事「日本からの和牛、黒豚の禁輸が解除」にもあるように、日本産牛肉・豚肉・乳製品のシンガポールへの輸入が解禁されました。4月半ばに宮崎県で口蹄疫が発生、その後同県下で疑似患畜29万頭近くが7月初めまでに殺処分され、3ヵ月の間に新たな発生がなかったことから、日本は10月6日、国際獣疫事務局(OIE)へ口蹄疫清浄ステータス回復のための申請を行いました。

 
シンガポール側の禁輸措置が取られたのは4月30日。昨年5月に約8年ぶりに日本産牛肉の輸入が再開されてからわずか1年足らずのことでした。OIEによるステータス回復認定は来年2月上旬との見通しから、シンガポールでの輸入再開も早くてその後と見られていましたが、決定が早かったのは、この1年ほどでシンガポールで日本産和牛が味わえる楽しみを知った消費者やその良さを知った飲食店関係者が増え、高い需要があること考えられます。近年の目覚しい経済成長でシンガポールの人々の経済力も高まっており、「値段が高くても美味しいものが食べたい」と高級食材を使った日本食を楽しむ姿がしばしば見られます。BSE問題で日本産牛肉の禁輸処置が取られた2001年頃の状況とは大きく違う点です。

 
ちなみに香港では、口蹄疫発生に伴い設定されていた移動制限区域および搬出制限区域以外で生産された日本産食肉については、牛肉は4月30日、豚肉も5月10日には輸入を再開していました。マカオも同様の条件で5月中旬に、アラブ首長国連邦も9月末には禁輸処置を解除していました。

 
今回の口蹄疫問題は、一地方で起きたことが、国内はおろか世界的に影響を及ぼす可能性を改めて浮き彫りにしました。各国は、自国の情報を外部に的確に伝えていくと同時に、相手国の状況を正確に掴んで冷静な判断を下す必要があります。

 
昨今の世界的な日本食ブームの裏には、ここ10年ほどで日本の農水産物を各国が輸入しやすくなったこともあります。自由貿易協定などでせっかく増えた人や物の往来を制限するのではなく、しっかり対策を講じるべきで、世界全体の経済発展を阻害することのないような取り組みが各国に望まれます。

の記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.177(2010年10月18日発行)」に掲載されたものです。

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