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社説「島伝い」

2015年4月20日

日々一生懸命

オーチャード・ロードを挟んで、イスタナと向き合うようにある小高い住宅地の中に、オクスリー・ロードという細い道があります。シンガポールの中心部という好立地で、近くには高層のコンドミニアムや商業ビルが林立しているエリアがありますが、その道沿いには低層の戸建住宅ばかり。というのも、先月亡くなったリー・クアンユー氏が70年にわたって居住した自宅があり、高層建築物が規制されているためです。

 

先日、自分の死後は自宅を速やかに必ず取り壊すように、とリー氏が遺言していたことを家族が公表しました。氏は過去のインタビューでも、自分が死んだら家は取り壊して規制も変更すればよい、再開発が進んで高層の建物が増えれば地価も高くなるだろう、と語っています。築100年以上と古く、基礎が悪いため高い保守費用がかかる、家族がこの家を懐かしむには写真があれば十分だ、とも。

 

70年にわたって住み慣れた我が家に、リー氏が愛着を持っていなかったはずはありません。しかし、常にシンガポールという国とその未来を考えてきたからこそ、一見無情にも思える選択肢を最善と判断したのでしょう。常に合理的な判断を求める現実主義者であった氏らしさがここにも表れています。そして、その判断を家族も尊重しているのは、この国をできるだけ早く成長させ、さらに良い方向へ成長し続けるためには何をすべきかを考え、日々一生懸命に取り組んできた氏のことを十分に理解しているからでしょう。

 

日々の取り組みを積み重ねていく過程は、土台作りに似ています。一歩一歩着実に踏み固めていくと、しっかりとした土台ができあがります。その場しのぎで、きちんと踏み固めずに足あとをつけるだけではすぐに崩れてしまいます。仕事でもプライベートでも、限られた時間の中で持てる能力を最大限に発揮し、今できることを一生懸命実践する日々を積み重ねていくことで、それぞれの土台が作られていきます。明日はないかもしれない、と思えば今やっておくべきとわかっていることを後回しにする気持ちも振り払えるでしょう。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.278(2015年04月20日発行)」に掲載されたものです。

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