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「メイド・イン・ジャパン」のダークチョコレートを>世界へ届けたい ~Awfully Chocolateの次なる戦略

濃厚な味がトレードマークのチョコレート菓子専門店「Awfully Chocolate」。根っからのチョコレート好きが高じてリン・リー氏らが1998年に会社を設立。チョコレートケーキとアイスクリームだけを取り扱うユニークなビジネスモデルで注目を集めた。広告費を一切使わない戦略にもかかわらず、材料にこだわり、チョコレート本来の味を生かしたケーキが消費者のハートを掴み、現在、国内に6店舗、海外では19店舗(東南アジア、中国・台湾・韓国・欧州)と事業を拡大、「Everything with fries」(国内3店舗)、「Sinpopo」とレストランの多角化経営でも頭角を現し、今やシンガポールを代表するブランドのひとつにまで成長した。「Awfully Chocolate」は今年で創業16年目。ロングランのブランド確立が難しいとされる当地で、チョコレート一本で勝負した同社の強さ、成功の秘訣について、話を聞いた。

 

 

― 何故、チョコレートビジネスを?
自他ともに認める大のチョコレート好きは母譲りで、子どもの頃のおやつと言えばそれしか食べたことがないほど。特にダークチョコレートは当時、売っていること自体がまれでしたが、母はその貴重なものを必ず探してきました(笑)。起業のきっかけは、友人らと一緒に夜食を食べていた時。ビジネスのことはさっぱりわからないけど、ダークチョコレートケーキ専門店はどうだろうか、と話すと、皆食いついてきた。当時主流だった甘くて軽いカラフルなケーキの逆を行った、色を付けない濃厚なチョコレートケーキを、というと、みんな身を乗り出して。すぐに、やろうという話になり、まず、言い出しっぺの私が先に仕事を辞めてチョコレートビジネスへ。当時ボーイフレンドだった今の夫と友人らは本業を続けながら、パートタイムで手伝うという形でスタートしました。

 

― 設立当時のショップを見た時は衝撃的でした。白い壁とガラス張りの箱のような店構え。そのど真ん中にショーケースがポツンとあるだけで、何を売っているのか外からは見えない。非常にユニークなビジネスモデルでした。
当時の1号店はご指摘の通りの店構えだったので、興味本位で立ち寄ったお客様から「何を売ってるの?」と聞かれる始末で。メニューもないし、商品も見えない。当の商品と言えば、フルーツも入っていなければ、何のデコレーションもないダークチョコレートケーキだけ。でも、元々「味」で勝負するつもりでしたから、余計なものはいらないと思った。当時は内装や広告に回す資金の余裕もなかったんですが(笑)。そういう経緯で商品開発に注力していった結果、客足がどんどん増えていった。そこで、マーケティングも兼ねて、来店するお客様にどうやってこの店を見つけたか、という聞き取り調査を行ったんです。そのほとんどが口コミで、「ジューチャットに小さな面白い店があって、そこのチョコレートケーキがすごくおいしいと聞いて、わざわざ探しに来た」と言うんです。そこで気づいたのは、いいモノを持っていれば、向こうから見つけに来てくれる、ということ。我々の場合は、それがチョコレートをふんだんに使ったケーキだった。

 

― 「Awfully Chocolate」のネーミングが非常に印象的です。
そういう店構えでしたから、シンプルにチョコレート製品を売っているというわかりやすさが必要でした。オーフリー(Awfully)というのは、時に悪い意味合いがイメージされますが、実は「ものすごくいい」という意味もある。また、かわいいよりも強い印象がよかった。ブランド名を変えようと思ったことは、とよく聞かれますが、この名前以外考えられないし、そんなこと一度も考えたことがないんです。そういえば最近、似たような名前のブランドがたくさん出てきましたね。シンプリー○○とか、ストリクトリー○○、とか(笑)。

 

― 目玉商品、チョコレートケーキの売り上げが伸びて、ビジネスが拡大。2004年に2号店(カトン)をオープンしました。
「毎日食べられる」ということにこだわったケーキに使うチョコレートはもちろん自社製です。菓子職人の友人と毎週末、もっとチョコレートの味が欲しい、とか、もうちょっと甘さを控えてとか、ああでもないこうでもないと言いながら、1年間試行錯誤した結果、添加物や人工的な材料を使っていない理想のオーガニック・チョコレートケーキが完成しました。認知度が徐々に高まりつつあったのを機に、アイスクリームも開始。従来からある軽くて適当に甘い市販品に比べ、濃厚なダークチョコレート味が当たりました。シンガポールは1年中季節が夏というのも追い風でしたね。それでも、「Awfully Chocolate」としてのビジネスが軌道に乗るまでは実に6年の道のりでした。

 

― 昨今の経済環境の中で、ビジネス展開するうえでの「壁」は何ですか?
小売りビジネスの環境はご存じのとおり、家賃が高止まり、恒常的に人手不足という状況で、F&B業界は瀕死の状態です。ここで成功することはもう不可能に近い。このままビジネス環境が改善しないならば、世界に通じるシンガポール・ブランドは今後30〜40年は出てこないかもしれない。いや、それどころか10〜20年で、既存のブランドも死に絶えてしまうかもしれません。個人的には、今後は海外に出て、現地で人を雇って事業を広げていくしか生き残りの方法はない、と考えています。これまで海外店舗はフランチャイズでしたが、自分達でやればもっとうまくできるだろうと思い、現地会社とジョイント・ベンチャーという形をとることにしました。また、これまでと全く違うビジネスモデルなんですが、量産品も始めました。香港で試験的に始めて好調だったので、シンガポールでもできると思った。現在は、NTUCフェアプライスに商品を卸していますが、スーパーマーケットとショップ製品のクオリティは全く違う。商業レベルで売っていくことを考えると、やはり、もっと味覚や舌触りに関わる食品製造科学のアプローチが必要になってくる。現時点では、これを模索している段階です。

 

― その国際展開計画で、次のターゲットと考えているのは?
イギリスは、世界有数のチョコレート消費国。まずはここへ量産品を投入して、さらにヨーロッパでも事業を拡げていきたい。欧州主流の甘くて重いチョコレートから一線を画した我々の新しい製品で勝負をしようと考えています。そこでクオリティを考えた時に、製品づくりの場所として候補に挙がるのが、日本。メイド・イン・ジャパンのAwfully Chocolateを全世界へ売っていけたら、と考えています。実はかなり真剣に、日本の創造的で革新的な製造業者を探しています。日本市場への参戦も長年の夢なんですが、既に成熟感があるから慎重にならざるを得ない。もちろん、オファーがあれば非常にうれしいのですが。この計画がうまくいけば世界各国から(シンガポールの)旗を振って、シンガポーリアンによるブランドだとアピールできる。その日は近いと自負しています。

 

― 一念発起で起業を考えている人にアドバイスを。
マインドセットが非常に大事ですね。事業を始める時、人はいろいろなことを言ってくる。たった一つの商品でどうやってビジネスとしてやっていくの?、オーチャードで店を開かないとだめ、食べるものを売っているのにどうして座るところがないの?、など。非常に貴重な意見ですが、聞き過ぎると焦点がぶれていく。本当に大事なのは、自分で決断して行動するということです。