シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOP国・企業・個人の三者に“勝ち”をもたらす可能性(4)

ビジネス特集

2011年5月16日

国・企業・個人の三者に“勝ち”をもたらす可能性(4)

早稲田大学大学院 商学研究科 准教授、サイコム・ブレインズ講師池上重輔氏

昨年に引き続き、サイコム・ブレインズ講師の池上重輔氏がAsiaXスペシャル・インタビューに登場。国、企業、個人の利害にズレが少なかった「日本株式会社」の時代と違う現代において、三者にとって“勝ち”とできる道を池上氏はどこに見ているのだろうか。また、日本企業がグローバルに勝っていくためには、国、企業、個人がそれぞれ何をすべきなのだろうか。

 

 

英語で話す、外国人の日本語を許容する――言葉の壁の越え方

p4-1日本人が海外に出る、あるいは外国人を日本に入れる上で、避けて通れないのが言葉の問題。しかし、池上氏は「実はそんなに問題じゃないと思う」と言う。自らも英国留学の経験があり、現在はシンガポールの南洋理工大学(NTU)と早稲田大学とが共同で進めている早稲田-NTUダブルMBAプログラムで講義を担当、早稲田大学のETP(EUエグゼクティブ教育プログラム)ではヨーロッパ連合(EU)各国のビジネスマンが日本でビジネスを行うためのトレーニングの責任者も務めている。ETPに参加するのは、日本語などアジア言語の習得に決して有利とは言えないヨーロッパからの参加者で、その多くは30代から40代後半、中には50代で会社の社長という人もいる。それでも、ひらがなの習得から始めて1年後には日本語でコミュニケーションを取れるだけでなく、プレゼンテーションまでやれるレベルになるのを氏は何人も見てきている。「日本語は難しい、と言われていますが、きちんと体系的なトレーニングを行えば30代以降の人でも十分コミュニケーションできるようになります。同時に、我々日本人も、英語をある程度サポート言語として使うことで、彼らがある程度の日本語を話せれば十分話し合えます。日本人自身がある程度は英語でコミュニケーションを図って、さらに外国人の日本語に対して許容性を持つ、この2つがあれば、サービス業をオープン化して、必ずしも流暢な日本語ではない人、あるいは日本語を勉強していない人が来ても対応できるようになると思います」

 

さらに、日本人はある程度英語を話せてもヒアリングがあまり得意ではないと言われるが、それでもビジネスは十分できると氏は言う。「外国人に教えていて思うんですが、非ネイティブの英語話者が100パーセント理解しているかというと、そうではないんです。彼らの多くは、7割ぐらいわかっていればいい、みたいなところがあって、間違いがあっても『オー、ソーリー』であまり気にせず直してしまう。でも日本人は100パーセントわからないといけないんじゃないかと思ってるんですよね。日本人は求めている水準が高すぎ(笑)。そこを変えて、わからないこともある、と思うだけで、英語でのコミュニケーションが相当進むようになると思います。」ヒアリングは慣れれば上がって行くものだが、100パーセントを求めるために最初の一歩を踏み出そうとせず、海外でもずっと通訳を付ける人がまだまだ多いのでは、という。「泳ぐことだって、最初は水に入ることから始める。そして、時には溺れそうになりながら、段々泳ぐことに慣れていくでしょう?」日本人が英語でのコミュニケーションがきちんとできないからとためらう姿を、「自分は100メートルを50秒で泳げないから海に入らない、と言っているようなもの」と氏は例える。「そんなオリンピック級である必要は無いんです。」逆に1年で『あいうえお』から日本語でのプレゼンテーションができるまでになった人達は、どんどん海に入っていった人達だ。「こちらが無理矢理海に突っ込むというのもあるんですが(笑)。で、溺れそうになったらツンツンと突いて『まだ海から上がるなー』と。そうすると、溺れながらも泳ごうとするわけです。日本人のミドルと言われる年齢以上の人達だって、やればできるはずなんです。通訳を付けない、とか、若いやつを横につけない、といったことを自分に課すことからでも始められる。トライ&エラーでいいんだ、ってマインドセットを変えるだけで良いんです。そのためのトレーニングもありますから。」これは、英語に限らずあらゆることにも通じると言えそうだ。

 

もうひとつ、日本人が英語で話すことに躊躇してしまうのが発音。しかし、非ネイティブの英語話者が話すアクセントがネイティブ話者にはわかりにくい、ということは良くある話だ。「最初はジャパニーズ・イングリッシュで何も恥じることは無いんです。半分しかわからないんだったら、そのわかった半分を『お前はこう言ったんだよな?』って聞き返しながら、それを積み重ねていく。他の非ネイティブだってみんなそうしてるんですから。むしろ、本当は意外と喋れるのに、それを使えていない人達が日本人にはいっぱいいると思います。」日本国内にも、考え方を変えるだけでどんどん海外にも出られる人材が、実は多くいるはず、と氏は見ている。

 

一方、英語ではなく現地の言語に関しては、学習能力の高い若年層の活用が有効、と提案する。「最近の若い人達はあまり野心がない、と言われますが、高い意識を持っている人達もたくさんいます。これまではビジネススクールへの留学と言うとやはり欧米でしたが、アジアに行く人が増えています。ただ、アジア圏留学経験者をこれまでは企業があまり採用していませんでした。昨年あたりからようやく採り始めた感じです。というのは、企業の中枢が従来の考え方で採用していたからなんです。考え方を変えるだけなんですよね、結局。」アジア圏留学経験者のように、アジアに関心がありポテンシャルの高い人材を日本で数年教育した後20代のうちに現地に送り込み、数年かけて現地の言葉や事情に通じるようにする、これを3層ほど繰り返せば組織としても能力が相当高まるのでは、ということだ。「言葉の問題は、あるにはあるんですが、十二分に解決可能で、それも意識を変えるだけでかなりのことができてしまうんです。ただ、そのためには同時に企業の役員などトップ層にも意識を変えてもらうためのトレーニングが必要でしょうね。社長トップダウンで『海に突っ込むんだ』ってやらないと、中途半端になってしまうでしょう。組織の規模が大きくなればなるほど大変なんですが」

 

これからサービス業の海外展開を進め、氏が提唱するような方向性でビジネスを成功させていくには、経営層から中堅層、現場とあらゆるレベルで日本での今のやり方を変えなければならないというわけだが、池上氏は、今回の東日本大震災がひとつの大きなきっかけになるのではと考えている。「今回の震災は非常に不幸なことでしたが、このぐらい甚大なショックがあると、もしかしたら大きな変革へのバネになるかもしれない。」当面は復興に全力で取り組まなければならないが、その先に構造的な変化を起こせるか。日本という国、企業、そして個人の真価はむしろこれから問われることになりそうだ。

 

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.189(2011年05月16日発行)」に掲載されたものです。
文=石橋雪江

おすすめ・関連記事

シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOP国・企業・個人の三者に“勝ち”をもたらす可能性(4)