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タイ銀行業界:デジタル化加速で店舗数が年間13%削減 ~ コスト抑制に期待

 ネットバンキングが普及したタイの金融業界で、デジタル化の進展による店舗数の大幅な削減が実現している。国内商業銀行の店舗総数は、今年3月末時点で前年同期比12.6%減の5,553店に縮小した。わずか1年間で801店が閉店。4年前との比較では、1,182店が減少したことになる。地域に根差した支店ネットワークのメリットが少なくなるとはいえ、店舗リストラがもたらすコスト抑制(=利益の押し上げ)効果は多大だ。以下、店舗動向を中心に同業界の現状をまとめる。
 
 まず、この一年間で店舗総数が大幅に減少した様子を「亜州ビジネスASEAN」ニュースで確認しておこう。
 

タイ:商銀の支店数5,553店、1年で801店減少

 タイ中央銀行の集計によると、2022年3月時点の商業銀行29行(外資系銀行を含む)の支店数は5,553店だった。新型コロナウイルス流行を背景に、デジタル化が進展したことなどを受け、1年間で801店減少した。
 
 大手5行の減少数では、最大手のバンコク銀行(BBL)が114店で最多。サイアム商業銀行(SCB)が110店、三菱UFJフィナンシャル・グループ傘下のアユタヤ銀行(BAY)が31店、カシコン銀行(KBANK)が26店、クルンタイ銀行(KTB)が8店で続いた。
 
 支店数はバンコク銀が1,014店で最多。クルンタイ銀が973店、カシコン銀が836店、サイアム商銀が739店、アユタヤ銀が635店で続いた。このほか、TMB銀行とタナチャート銀行が合併して21年7月に発足したTMBタナチャート銀行(TTB)が622店となった。合併前の21年3月の支店数はTMBが668店、タナチャートが432店だった。[「亜州ビジネスASEAN」 4月26日付ニュース]
 


 

 
 大幅な店舗削減が可能になる背景には、前述したようにデジタル化の急速な進展がある。「グローバルデジタル2021」によると、タイは銀行・金融サービスのアプリを使用する人口(16~64歳)の割合が68.1%を占め、3年連続で世界トップの座を維持した(世界平均の38.7%を大幅に上回る水準)。
 
 こうしたなか、タイの銀行は業績が着実に改善している。今年第1四半期の純利益は、上場10行の合計で前年比14%増を達成した。比較対象となる前年同期の特殊要因(新型コロナの影響による貸倒引当金の積み増し)によるところが大きいとはいえ、店舗削減に伴うコスト抑制も寄与したといえよう。同期の業績については、「亜州ビジネスASEAN」ニュースでもまとめているので、以下ご参照いただきたい。
 

SET上場の商銀10行、1Qは14%増益

 タイ証券取引所(SET)に上場する商業銀行10行の2022年第1四半期の純利益合計は、前年同期比14.4%増の533億3,500万バーツ(約2,020億円)だった。前年同期は新型コロナウイルス流行の影響で貸倒引当金を大きく積み増していたため、反動が出た。また、新規貸出による金利収入の増加が増益に寄与した。22日付ターンセタキットなどが伝えた。
 
 全行が黒字を計上し、9行が増益だった。大手5行では、◆カシコン銀行(KBANK)=5.4%増の112億1,000万バーツ◆サイアム商業銀行(SCB)=1.0%増の101億9,300万バーツ◆クルンタイ銀行(KTB)=57.4%増の87億8,000万バーツ◆アユタヤ銀行(BAY)=14.0%増の74億1,800万バーツ◆バンコク銀行(BBL)=2.8%増の71億1,800万バーツ――といずれも増益だった。
 
 唯一減益だったのはLHフィナンシャル・グループ(LHFG)で、純利益は8.7%減の5億1,100万バーツ。筆頭株主で台湾の商業銀行大手、中国信託商業銀行(CTBC)が21年9月に出資比率を46.61%まで高め、個人向け融資事業を強化するために貸倒引当金を積み増したことで減益となった。[「亜州ビジネスASEAN」 4月26日付ニュース]
 


 
 タイの銀行業界はまた、利益だけではなく貸出状況も堅調。各種の融資支援策が導入されたこともあり、コロナ禍に見舞われながらも着実に貸出残高を積み増す流れだ。当面の間、業界の環境は悪くないと思われる。
 

 

亜州リサーチASEAN編集部
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