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アジアおもしろクルマ事情(タイ編)

2018年7月31日

ピックアップトラックの独壇場

タイの国民車ともいうべきピックアップトラック。年間販売される自動車の約半分がこのタイプです。インドネシア、マレーシアと続いた本シリーズでは、今月と来月、タイのクルマ事情をレポートします。

 

 

タイの人々と共にあるピックアップトラック

タイでは首都バンコクから地方の農村部に至るまで、後部に荷台のついた小型トラック(ピックアップトラック)が走り回っているのを目にします。このタイプのトラックは1970年代以降、各自動車メーカーがモデルチェンジを繰り返しながらタイ国内で生産を続けていて、現在、タイ国内自動車市場の半分を占めています。

 

70年代に始まったタイ政府の国産化政策に呼応し、日米各メーカーはピックアップトラックの現地生産を開始しました。当時、ピックアップトラックは日本でも商用車として、アメリカではエントリーモデルの乗用車として売れ始めた時代です。日本で生産輸出されていたモデルを、各社がタイの国産モデルに選択したわけです。燃費の良いディーゼルエンジン、そして荷台にはなんでも積むことができる使い勝手の良さがタイ人のライフスタイルやビジネススタイルにマッチして販売台数を伸ばし、瞬く間にタイ社会に浸透しました。近年は、バンコクのビジネス街などではカローラやシビックといったセダンタイプやスタイリッシュなSUVが増えているものの、郊外や地方で目につくクルマはやはりピックアップトラック。現在もタイの人々の生活と共にありプレゼンスは大変大きいものがあります。

 

ピックアップトラック市場No1はトヨタでなく『いすゞ』

市場の半分近くを占める年間40万台規模のピックアップトラック市場。日本メーカーだけでなく、アメリカンブランドのシボレーやフォードも頑張っていて、日米8ブランドがそれぞれ自慢のモデルを現地生産し市場投入しています。その中でも長年にわたりトヨタといすゞがNo1の地位を巡って熾烈な販売競争を展開。昨年2017年はいすゞの『D-マックス』がトヨタの『ハイラックス』に大差をつけてベストセラーカーとなりました。いすゞの世界全体の販売台数は僅か50万台で、1,000万台規模の販売量のトヨタグループの20分の1。そのいすゞがタイのピックアップトラック市場に限れば王者トヨタと互角に戦っているわけです。

 

いすゞのD-MAX / Isuzu Thailand HPより

 

日本にも逆輸入されるトヨタのピックアップトラック

タイで各メーカーが生産するピックアップトラックは、国内販売だけでなくASEAN域内や中近東にも大量に輸出され、各メーカーのドル箱となっています。もともと小型トラックの大市場アメリカはというと、さらに大きいマッチョなピックアップトラックがメインの市場となり、このサイズのトラックはすでに販売されていません。そのため従来日本にあった生産拠点はタイに移してしまい、現在このタイプのトラックは唯一タイで生産しているというわけです。

 

トヨタのハイラックスも日本では2004年に生産が中止されたのですが、アウトドアスポーツ派の一部に根強いファンがいて国内販売が期待されていました。荷台にマウンテンバイクや水上バイク、サーフボードを積んで走りたいユーザーたちです。その願いがかなって昨年ようやくタイから日本に逆輸入されました。しかしながら、クルマは世界基準サイズ。日本の車両法規を適応するとその大きなガタイの荷台付き車は「1ナンバーの普通貨物自動車」という区分になってしまうのです。毎年車検が必要で、税金も保険も高速料金も高いというおかしな現象が起きています。日本の自動車法規はすでにガラパゴス化していることに改めて気付かされます。

 

タイから日本に逆輸入されたトヨタのハイラックス / トヨタHPより

 

タイ政府の電動車国産化奨励策

世界の自動車は環境やエコブームにのり電動化が急速に進展しています。2,400ccクラスのディーゼルエンジンを積んだ大きなピックアップトラックは流石に世界の潮流から少し取り残されている感があります。タイ政府は昨年ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車といった電動車の国内生産を奨励する政策を出し、各メーカーとも現地生産の申請をしているようです。ここまでタイの人々の生活に浸透したピックアップトラックと世界の潮流である電動車が今後どう共存していくのか、大変興味深いところです。

プロフィール

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藤井 真治(ふじい しんじ)

(株)APスターコンサルティング
アジア企業戦略コンサルタント&アセアンビジネス・プロデューサー

自動車メーカーの広報部門、海外部門、新規事業部門経験30年以上。インドネシア/香港現地法人トップとして海外での企業マネジメント経験12年。その経験と人脈を生かしインドネシアをはじめとするアセアン&アジアへの進出企業や事業拡大企業を支援中。自動車の製造、販売、アフター、中古車関係から IT業界まで幅広いお客様のご相談に応えます。『現地現物現実』を重視し、クライアントと一緒に汗をかくことがポリシー。
Website: www.ap-star.jp  E-mail: fujii258@gmail.com

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.336(2018年8月1日発行)」に掲載されたものです。

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