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HULS ASIA PACIFIC PTE. LTD. 日本のものづくりで社会を変える、デザインの力を信じて日本工芸品のギャラリーをオープン

デザインと、商社ビジネスと、ものづくりと
トライアングルの経験をいかした挑戦

2017年9月、HULSがギャラリーをオープンさせた。シェフを主なターゲットに、器等の日本の工芸品を展示・販売する場だ。開設に至る背景には、CEO・柴田裕介さんの「デザインの力」への想い入れがある。

 

HULS ASIA PACIFIC PTE. LTD.
CEO & Founder 柴田 裕介 氏

 

「大学卒業後にウェブデザイナーとして働いた後、エレクトロニクス素材の専門商社へと転職しました。1990年代後半から2000年代前半にかけて大手エレクトロニクス企業の当地への進出が続き、そこに紐づいて私が所属した会社もシンガポール拠点を開設。同社で海外事業を経験する中で、商社ビジネスにこそ「デザインの力」が必要では、と考えるようになりました。というのも、エレクトロニクス製品を扱う中小メーカーのウェブサイトは魅力的な情報が不足していて、カタログが整備されていないことも多いのです。商社としてメーカーと差別化を図るために、学んできたデザインの力がきっかけになるのでは、と。クリエイティブの力で社会を変えることを目指し、2013年4月に東京でたちあげたのがHULSです」(柴田さん)。

 

彼の情熱は次第に工芸品に向けられていく。それは、世界に貢献できる切り口の1つに、日本のものづくりがあることに気がついたからだそう。「多様な価値観を持つ海外の人の方が、イノベーティブな事業を展開するのは得意です。一方で手間ひまをかければかけるほど良くなるものは、じっくり考えることに慣れている日本人に向いている気がします。工芸品こそ、丁寧な行程を経て生まれる、高品質で、季節感が表現された日本らしい創造物であり、世界に誇るべきものです」(柴田さん)。工芸品を海外に広めるべく、2015年8月、当地にHULS Asia Pacificを設立した。

 

工芸品事業の展開にあたっての障壁も、資料不足。英語での情報や質の高い写真など、海外向けの資料が必要だった。そこでウェブ制作の経験を生かし、2016年4月、情報サイト『KOGEI STANDARD』をスタート。日本工芸の産地を取材し、作り手の声を届けることに。「工芸品のルーツやそこで働く人の魅力を知って欲しい。器は何気なく使うものですが、その背景を知ることで、使う時に気持ちが豊かになります」と柴田さんは話す。

作り手とシンガポールのシェフをつなぐ
コミュニケーションの場へ

「HULS Gallery Singapore」を開くきっかけは、2017年3月の工芸品展示会。約300名が来場し、好評を得た。ファインダイニングが多数存在する当地だが、デザイン性の高い食器類の流通が乏しく、欧州の白磁にはない色とりどりの日本の工芸品に対する需要が、シェフの間で高まっていた。一方、日本国内の人口減少を懸念し、海外への販路拡大を考える作り手も増加傾向にあった。国や地方から補助金が出ることから欧州の展示会に出展するも、現地との時差や言語の問題からコミュニケーションが取りづらく、商売を成立させることが困難と考えた彼らは、アジア、中でもGDPの高い当地に注目していたという。同ギャラリーは両者の仲介役を担う形でオープンした。「例えば陶磁器なら、多くの窯元や作り手を見て知っているので、『この部分を片口にしたい』といった要望に対し、『それなら、この窯元でできますよ』と提案できます」と話すように、カスタマイズにも応じられるのが強み。実物の手触りや日本が持つ文化的要素が、外国人の目には新鮮に映る。「日本人として大事にしたい日本的なものを世界に伝えながら、自分自身も母国の魅力を学んでいきたいです」(柴田さん)。

 

会社プロフィール
HULS ASIA PACIFIC PTE. LTD.
24 Duxton Hill, Singapore 089607
+65-6225-6331
http://www.huls.com.sg