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ビジネスインタビュー

2017年8月25日

【Nomura Design & Engineering】プーン・チョン・ワーさん

変化し続けるシンガポールの空間デザイン、グループの総合力生かし顧客ニーズに対応

 オフィスや商業施設のデザインから設計、施工などを総合的に手がける乃村工藝社。日本で1892年に創業して以来およそ125年の歴史を持ち、日本国内では1970年の万国博覧会における主要パビリオンや、世界文化遺産である姫路城の施設展示のほか、百貨店やホテルなどの案件を多数手掛けてきた。シンガポールでは2009年から現地法人が活動を開始、同社のデザイン性や技術の高さは当地のクライアントからも評価されているという。シンガポールで街の開発が進む中、空間デザインにおけるニーズはどのように変化し、同社はその動きにどう対応しているのか。シンガポール拠点のマネージング・ダイレクターであるプーン・チョン・ワー氏を訪ねた。

 


 

ご経歴について教えてください。

 オーストラリアの大学を卒業した後、グラフィックデザインやイベント運営などの仕事に30年近く携わりました。乃村工藝社がシンガポールに現地法人を設立したのは2008年ですが、それ以前の1993年にシンガポール企業とジョイントベンチャーを設立しており、私はその会社で一年間働いた経験があります。その後2013年に、乃村工藝社のシンガポール現地法人であるNomura Design & Engineering (S) Pte. Ltd.に入社、2016年に現在のポジションに就任しました。

 

シンガポールでの事業内容や、主なクライアントについて教えてください。

 イベントや展示会会場、オフィス、小売店、飲食店などのデザインに関して、設計から施工までを一貫して手掛けています。主なクライアントは日系企業で、シンガポールでは特に小売店や飲食店、また欧米のファッションブランドの案件なども多く手掛けてきました。空間デザインを通じて、クライアントのビジネスの価値を高めつつ、手がけた案件からフィードバックを得ることでわれわれのサービスの質をさらに高められるよう努めています。

 

 当社は財務状況が良く、人員も充実しています。日本本社には、プランナー・デザイナーが480人、プロダクトディレクターが490人、と高い技術を備えたプロフェッショナルを抱えています。グループの力を生かして、デザインから施工までをハイクオリティかつ総合的にディレクションできることが独自の強みだと思います。

 

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MAUBOUSSIN, Wisma Atria(写真提供: Nomura Design & Engineering (S) Pte. Ltd. )
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JAPAN FOOD TOWN, Wisma Atria(写真提供: Nomura Design & Engineering (S) Pte. Ltd. )

 

シンガポールにおける最近の業績についてお聞かせください。

 オーチャードのウィスマ・アトリア内に昨年オープンした、日系飲食店16軒が集まる「Japan Food Town」は当社が手がけました。設計は日本本社、施工とプロジェクト管理はシンガポールがそれぞれ担当。本社と連携して物品を調達し、建具や什器は中国の拠点からシンガポールに輸入するなど、当社の総合力を武器にこの大型案件を無事に納めることができました。

 

 このプロジェクトでは、日本らしい雰囲気を演出することに徹底的にこだわりました。天井から和紙を垂らすなどさまざまな工夫をしており、施工は日本から呼び寄せたスーパーバイザーとローカルの職人が共同で行いました。こうした対応は乃村工藝社ならではのものだと思います。Japan Food Townの高いデザイン性は、クライアントからも高く評価されています。

 

シンガポールにおける事業の見通しについて教えて下さい。また当地における建築のあり方は、どのように変化しているとお考えでしょうか。

 シンガポールは政治的に安定しており、新しい建物の建設も続いています。またシンガポールは、日系企業にとって重要な投資先であるとともに、東南アジアでのテストマーケティングの場でもあり、有名ブランドのフラッグシップストアなど今後もさまざまな案件が出てくるでしょう。今後も有望な市場だと思います。

 

 シンガポールにおける建築の傾向としては、以前に比べて複合施設が増えていることが挙げられると思います。例えば、以前シティ中心部にあったフナンデジタルモールには、家電などを扱うショップが多く集まっていました。現在このモールは取り壊され、新しい建物の建設が進んでいます。新しくできる建物はショップだけでなく、オフィスや居住スペースも整備された複合施設として生まれ変わる予定で、より多様な機能を持つことになります。こうした中で、空間デザインの分野でもサービスの付加価値を高め、クライアントのニーズをより深く理解できるよう、長期的な関係を築いていくことがより重要だと考えています。

 

他国での展開についてはいかがでしょうか。

 特に重視しているのがマレーシア、インドネシア、タイ、ベトナムです。経済成長が進むこれらの国では建物の建設も続いており、われわれにとっても大きな可能性のあるマーケットといえます。マレーシアでは、クアラルンプール国際空港の近くにある三井アウトレットパークで実績があり、今後も多くの案件を手掛けていきたいと考えています。

 

ICTの分野でも次々に新しい技術が出てきています。こうした流れは実店舗や空間デザインのあり方にどういった影響を及ぼすのでしょうか。

 モバイル機器やオンラインショッピングの普及により、店舗に行かなくても買い物ができるようになったことは大きな変化といえます。実店舗でのショッピングに高付加価値化が求められるようになってきており、ただ商品を売るだけでなく、ライフスタイルを合わせて提案したり、コミュニティとしての機能を持たせたりすることがより重要になってきています。例えば、その店に行けばショッピングができるとともに、友人と一緒にコーヒーを飲んでくつろいだり、知り合いを増やすことができたり、といったように。われわれのビジネスにおいても、顧客が居心地の良さを感じられる空間を演出するという視点がより重要になっていると思います。

 

 そういう意味で、今年4月、東京にオープンした大型商業施設「GINZA SIX」は面白い場所だと思いました。施設内にはコーヒーを飲んでくつろぐスペースがあるなど、まさにコミュニティのような機能を持っています。ライフスタイルに関する情報発信も充実しており、そこでしか買えないオリジナルの商品を置いているところもポイントですね。照明も明るすぎず、施設内は温かみのあるブラウンを基調にしているなど、快適さを感じられる空間をうまく演出していると思いました。

 

職場には、日本人とシンガポール人がいらっしゃいますね。オフィスはどのくらいの規模なのでしょうか。また両者をうまくマネジメントしていくためにどのような努力をなさっているのかお聞かせ下さい。

 現在シンガポールオフィスには、日本人が3人、シンガポール人が6人在籍しています。私は、日本人とシンガポール人とで、仕事に対する考え方に大きな違いがあるとは思いません。いい仕事をすることが大事なのは世界共通であり、その点は当社のスタッフにも共通の認識があると思います。ただし、世代による考え方の違いは考慮したほうがいいのかもしれません。若いスタッフに接する際は、ただトップダウン的に指示を出すだけでなく、親身になって相談しながら仕事を進めていく柔軟性も重要だと考えています。

 

 日本人とうまく仕事を進めていくうえでは、日本語を始めとした文化を学ぶことも大事だと思います。私は日本の文化などに関するセミナーに参加したりすることで、日本人の考え方や行動様式などを学ぶようにしています。そうすることで、より効果的なマネジメントができるようになると考えています。日本について学ぶことはまだまだたくさんありますが、当社の日本人とシンガポール人は良い関係を築けていると思います。

 

仕事のやりがいについて教えて下さい。

 デザインの業界が常に進化しているところに魅力を感じます。毎年、新しい製品やサービスがマーケットに入ってくるとともに、古いものに再び注目が集まることも多いといえます。古いものと新しいもの、それらをどうデザインに生かしていくかを考えることが重要であり、やりがいを感じられるところだと思います。

 

最後に一言お願いします。

 高い創造力を発揮し、クオリティの高い空間デザインを提供することで、東南アジアで事業を展開するクライアントにとって最良のパートナーであり続けたいと、常々思っています。

 


プーン・チョン・ワー氏
Nomura Design & Engineering (S) Pte. Ltd. (乃村工藝社グループ) マネージング・ダイレクター

 
シンガポール生まれ。豪州パースのカーティン大学でマーケティングとファイナンスを学ぶ。卒業後はアートやグラフィック関連の企業に勤め、展示会やイベント運営、マーケティング、リテール業務、グラフィックおよびインテリアデザインなどの分野で、長年に渡り経験を積む。2013年にNomura Design & Engineering (S) Pte. Ltd.に入社し、2016年にマネージング・ダイレクターに就任。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.324(2017年8月1日発行)」に掲載されたものです(取材・写真 : 佐伯 英良)

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