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現地採用者の声!シンガポールでの部屋探し

現地採用として働く人にとって悩ましい問題の1つに、住居選びがあるのではないでしょうか。駐在の人とは違って、住居選びから契約、それらに伴うオーナーやエージェントとのやり取りまで全て自分でしなければなりません。「どこで部屋を見つければいいのだろう」、「探す時の注意点にはどういったものがあるのだろう」、「トラブルに巻き込まれないための予防策はあるのだろうか」と、疑問は尽きないのではないでしょうか。今回は現地採用で働く方3人と、不動産業界の専門家にお越しいただき、住居選びのコツやトラブルへの対処法などについて語っていただきました。

 

Able Network Singapore
Carrack Pte Ltd, Business Development
犬飼 香代さん

 

日本国内で16店舗のエイブル加盟店を展開する会社の取締役を経験。その後、不動産賃貸仲介のノウハウと海外店舗展開により得たノウハウを生かし、1984年設立のローカル企業と手を組んで住宅、オフィス、店舗、工場、倉庫など幅広い物件を紹介している。エイブルネットワークシンガポールではジャパンデスク担当として、顧客の窓口となりお部屋探しから入居後までのサポートを担当している。

 

 

Healthway Medical Group Pte Ltd
Business Manager, Japanese division
佐々木 寿直さん

 

1997年、日本の会社の派遣職員として来星。2004年末、同社の退職を機に一旦日本に帰国するも、当地の現地企業勤務のため2006年に再び来星、現在に至る。今年1月からは約30年にわたって務めた金融関係の仕事から医療機関に転身。約100ヵ所とシンガポール最大のネットワークを誇る民間医療機関のジャパニーズクリニックビジネスマネージャーとして、新分野の仕事に挑戦している。

 

Resonance Box Pte. Ltd.
Director
松原 睦さん

 

来星前は4年間アパレル業界に携り、店舗運営を担う。26歳で、シンガポールの語学学校British Councilで半年間英語を学んだ後、現地企業に就職。2015年、Resonance Boxという現地法人を立ち上げ、株式会社エンパシが自社開発するオールインワン決済端末をASEANに普及させるべく活動中。現在は店舗での効率化・売上UPを図るためのPOSソリューション、店舗コンサルまで活動を広げている。

 

 

Authorized representative of AIA Singapore
Financial Services Consultant
田中 深幸さん

 

1998年よりシンガポール在住。日本での英語講師やイギリス人付きの秘書経験を活かし、シンガポール進出企業への情報提供や政府への要望をとりまとめる日本商工会議所、日本人学校の事務局などで勤務。2013年から、AIAのコンサルタントとして保険の情報提供を行っている。難しいと思われがちな保険だが、顧客のニーズに合わせて顧客の利益が最大になるよう日本語で分かりやすく案内している。

AsiaX:本日はお集まりいただきありがとうございます。まず皆さんがシンガポールに来られた時期と、その時どのように部屋を探したのかをお聞かせください。

 

佐々木:私は日本の会社からの派遣で1997年に来星しました。最初に住んだ物件は、会社から紹介されたエージェント経由で見つけました。大変気に入って結局十数年同じところに住みましたが、家族の帰国と、会社を辞めて自分自身で仕事を始めることになったのを機に、インターネットを使って仕事が出来るHDBの物件(部屋)を探しました。しかし、下見の際に、一日中家にいると大家に話しただけで電気代が高くなるなどの理由で断られ、10件以上も下見してやっと決めることができました。

 

松原:私は8年前に来星しました。最初は来星を後押ししてくれた知人のシンガポール人が物件を見つけてくれたのですが、たった1ヵ月で建物の取り壊しのために退去しなければならなくなりました。それ以降は自分で物件を探すようになり、これまでに8回引っ越しをしました。
物件を探すにはエージェントに対する紹介料がかからない、インターネット上の情報サイトを使うのが良いと思っています。これまで、日本人向けのサイト「お役立ちウェブサイト」や、ローカル向けのサイト「イージールームメイト」などを使って探してきました。

 

田中:私は1998年に来星しました。当時は日系の不動産業者が提供するサービスは主に家族を伴う赴任者や法人などを対象とした駐在員向けで、現地採用として来星した私が単身者向けの賃貸情報を得るには、自分で探すほかありませんでした。また当時は賃貸情報などを扱うサイトもまだない頃で、シンガポールの新聞「ストレートタイムズ」の貸し物件欄を見て探しました。1件ずつ電話をかけては物件を見に行き、その中で気に入ったところに決めました。そこはオーナーとの同居でしたがすごく良い方で、実際に住んでみて特にトラブルもなく3年間住みました。

 

AsiaX:皆さん、さまざまなご経験をお持ちですね。今の住まいについて、住み心地はいかがですか。

 

田中:私は今の部屋をとても気に入っています。実は先程お話した最初に住んだ家に最終的には戻り、計8年ほどになります。気に入っている理由は、MRTの駅やショッピングセンターから近いわけではありませんが、一緒に住んでいるオーナーが家族のようにとても良くしてくださるので居心地が良いのです。職場から近い、家賃が安いといった理由で部屋を借りるのも一つですが、オーナーとの相性も大切だと感じています。

 

佐々木:現在は直接知り合いの人からHDBの1室を借りて生活しています。その人は私の仕事のこともよく理解してくれていて、先方からよかったら入居しないかと話をしてくれたので契約までのプロセスもとてもスムーズでした。以前は郊外の比較的新しいHDBに住んでいたのですが、契約上、料理ができないうえに、新興住宅地のため周りに飲食店もなかったのがとても不便でした。今は住んでいるHDBの隣がホーカーセンターで、一人暮らしの私にとってはとても便利です。

 

松原:現在はHDBの1ユニットを借りて友人3人とシェアしています。私も今の部屋は住みやすいと感じています。オフィスまでの通勤時間が30分以内なうえ、都心ではないのでスーパーで売られている食品の価格が良心的なところも魅力ですね。

 

AsiaX:皆さんに共通しているのは、どこに住むかというより、その物件が自分にとって居心地のいい空間であるかが大切ということですね。
犬飼さんに質問なのですが、現地採用者が一人暮らしをする場合、現在はどのようなスタイルが主流なのでしょうか。

 

犬飼:ルームシェアが主流ですね。女性の場合、海外での一人暮らしに不安があり、セキュリティー面などでHDBには少し抵抗があるという方が多いようです。少し家賃が高くても、居住者しか敷地内に入れないようになっているコンドミニアムを選ばれる方が多いですね。男性の場合は、女性に比べてHDBの物件を探す方が多いです。あとは男女ともに、1人部屋を希望して郊外のワンルームを探される方もいらっしゃいますね。

 

AsiaX:現地採用の方含め日本人に人気のエリアはありますか。

 

犬飼:通勤に便利ということでラッフルズ周辺やノビーナ、ニュートン、オーチャード、ドビー・ゴート、リバーバレーは以前から人気が高いエリアです。MRT東西線のティオンバルやレッドヒルも人気があります。広い部屋を好まれる方だと、イーストやウエストなどの郊外に住まれる方や、出張が多い方だとチャンギ空港近くに住む方もいらっしゃいます。お子様がいらっしゃるご家族は、日本人学校のバスルートを重視して選ばれる傾向がありますね。駅もしくはショッピングモールに近い物件が増えたことにより、エリアの選択肢が増えています。

 

田中:最近では、シンガポール全体に日本人の居住エリアが広がっていますよね。

 

犬飼:はい、日本人の居住エリアが拡大する中で、人気エリアも分散してきている印象を受けます。またシンガポールは日本と違い、国内のほとんどのエリアが通勤圏内なので、一部のエリアに人気が集中しないのでしょう。そのため、カトン、ベドック、ワンノース、アンモキオなど、さまざまなエリアに日本人が住んでいます。

 

AsiaX:スクールバスのネットワークが拡大したことも大きいですね。またシンガポール政府は1990年台後半頃から、オーチャードなどの中心部に集中していた居住者を分散させるため、郊外に大型ショッピングセンターなどを多く建設しました。こちらも要因になっているようです。

 

犬飼:そうですね。以前は日本人居住者が少なかったジュロンも今では人気があります。

 

AsiaX:中には佐々木さんのように、自宅で働きたいという人もいるのではないかと思います。その場合の部屋探しの注意点や必要な手続きについて教えてください。

 

犬飼:契約上、自宅を仕事場にすることが禁じられていることもあり、発覚した場合にペナルティーを課せられることがあるので注意が必要です。一方で、自宅を仕事場にすることで騒音が出る、部屋を訪れる人が増える、電気の使用量が増える、といったことにならなければ問題ないと判断するオーナーもいらっしゃいます。一度オーナーに確認してみましょう。
なお個人事業主として働く際は、住所の登録が必要になります。その際には公認会計士の方に相談してみるといいでしょう。


AsiaX:最近は日本人でペットを飼っている方をよく見かけます。ペットを飼いたい場合に気を付けることはありますか。

 

犬飼:ペットが飼えるかどうかはオーナーの判断によりますが、柱や家具に引っかき傷がつくことを心配して、猫を飼うのを断られるケースが多いと聞きます。賃貸に関する契約内容は事前によく確認しましょう。またペットを飼うためには手続きが必要となりますが、国外へ引っ越す時には予防接種、血液の抗体価検査、証明書交付などが必要になり、飼う以上に手続きが大変だったという話も良く聞きます。

 

AsiaX:佐々木さんと松原さんは、部屋を探すときインターネット上のサイトを利用したと仰っていました。手数料がかからないといった理由から、最近ではインターネットを利用する人が多いようですが、専門家から見て注意点はありますか。

 

犬飼:インターネットを使って物件を探すことの注意点としては、騙されやすいことやトラブルに巻き込まれた時に対処しづらいことなどが挙げられます。インターネットで見た物件の写真が実際のものと違っていた、という話をよく耳にします。築20年の建物なのに新築当初の写真をサイトに掲載していた、デポジットなどの入金を済ませた後にオーナーやその部屋を紹介してくれたエージェントと連絡が取れなくなってしまった、という声を来星して間もない人から聞くことがありますね。

 

AsiaX:皆さんの中でご自身、もしくは周りの人がトラブルに巻き込まれた経験はありますか。

 

松原:私の友人の中にも、お金を振り込んだ後にオーナーと連絡が取れなくなったという人がいます。この他にも、身分を証明するためにパスポートが必要だと言われて提出したところ、そのパスポート情報を悪用されてしまったという話も聞きました。

 

AsiaX:海外でのトラブルは対処法なども分からず、特に不安ですよね。賃貸に関するトラブルに巻き込まれるのを防ぐには、どうすればいいのでしょうか。また巻き込まれてしまった場合の対処方法についても教えてください。

 

犬飼:入金後にオーナーと連絡が取れなくなってしまった場合は、残念ですが、お金を取り戻すことはほぼ不可能だと考えたほうが良いでしょう。トラブルに巻き込まれてしまった場合には、必ず警察へ報告しましょう。届け出を提出しておくことで、パスポートの悪用などその後のトラブルを防ぐことができます。
物件探しでエージェントを利用する場合は、その人のライセンスを確認しておくことが重要です。不動産代理店協会(CEA)のサイト:https://www.cea.gov.sg/public-registerで確認することが出来ます。エージェントは登録者番号や名前、顔写真が載ったライセンスカードを持っているので、何か不審に思ったときはライセンスを見せてもらい、記載されている情報が本人と一致しているかを確認するといいでしょう。もしくは、不動産業者や知り合いを通じて信用できるエージェントを紹介してもらうのもよいと思います。

 

AsiaX:トラブルを回避するには、契約内容について把握しておくことも大切です。特に現地採用者はこれらの書類の手続きを全て自分で行わなければいけません。契約を結ぶ、または更新する際の注意点について教えてください。

 

犬飼:まず仮契約については、申込書ではなく本契約だと思ってきちんと内容を確認した上でサインするようにしましょう。その際には、住居の破損に関する修理代金の支払割合などがきちんと記載されているかも確認しておきましょう。ここでもオーナーの身元情報を確認することは大切です。
また本契約については、契約書にサインすれば安心という訳ではありません。入金が遅れたためにオーナーから断られてしまうケースもあります。すぐに入金できるよう、住居を探す際には家賃の1、2ヵ月分くらいは用意しておいたほうが良いでしょう。
契約を結んだ後も、特に不満もなく居心地がいいからとそのまま更新するのは危険です。内容に変更がないか必ず確認するようにしましょう。また価格交渉をすれば下げてくれる場合もありますので、オーナーときちんとコミュニケーションをとるようにしましょう。
シンガポールは契約社会です。サインをする前、また契約金を支払う前には、必ず書類によく目を通すようにしてください。焦って支払うのは禁物です。シンガポールは日本とは違う環境である、ということを念頭に置いて手続きを進める必要があります。

 

AsiaX:契約期間や、期間内に退去する際に発生する解約金などについてもチェックしておくべきですよね。仕事に伴う国外転居だと支払う必要がないのか、といった点を確認することも大切ですよね。

 

犬飼:そうですね。日本では約1ヵ月前に言えば退去できる場合が多いのですが、シンガポールの場合、中途解約は原則認められていません。しかしDiplomatic Clause(契約期間内中途解約)条項により個人の意思以外での国外への転勤が決まった場合等、一定の条件のみ適用されます。12ヵ月経過後2~3ヵ月前に文書にてオーナー側に通知する必要があります。契約時に項目が契約書に記載されている事を確認してください。


AsiaX:内覧をする際の注意点はありますか。

 

犬飼:内覧のときは、家具から照明、カーテンまで、もともと破損している箇所を確認するようにしましょう。写真を撮っておくなどして、後から請求された時に証明できるようにしておくのも1つの方法です。また契約期間中に解約した場合、発生する解約金の額やデポジットの返金規定なども確認しておきましょう。

 

AsiaX:入居後もさまざまなトラブルが起こりえます。トラブルが増える時期はあるのでしょうか。また実際に寄せられる相談にはどのようなものが多いですか。

 

犬飼:現地採用者、駐在者ともに住居探しのピークとなる3~5月は特にトラブルが増える印象です。ガス・水漏れが起きた、アリが大量発生した、前の住人が使っていた香辛料などの匂いが部屋に染みついていて困っている、など日本ではないような相談もあります。

 

田中:新築物件を借りる場合、電気が通っていなかった、普通に生活していれば避けられないような些細な汚れや破損に対しても修繕費用を請求されたなど、築年数が経った物件に比べてオーナーやエージェントとのトラブルが多いと聞いたことがあります。実際のところはどうなのでしょうか。

 

松原:私は2年間ほど新築物件に住んだ経験がありますが、退去する際にオーナーから、貸した時に比べて汚れているなどと言われ、支払っていたデポジットの何割かが返金されなかったことがあり、その時は納得できませんでした。

 

佐々木:私もシンガポールにきた当初新築の物件に住んだ経験があります。私の場合は特にトラブルは起きませんでしたね。

 

犬飼:築年数に関係なくトラブルは見受けられます。新築物件に関して言うと、オーナーは契約してから1年間、建設業者に破損部分の修繕にかかる費用などを請求できる保証期間があり、一般的にキッチン、バス、フローリング、キャビネット、空調機などが対象になります。そのため、居住者もその期間内の破損であれば修繕費用を支払う必要がないというメリットがあります。

 

AsiaX:話は変わりますが、2017年1月からEP発行について新基準が適用され、取得が難しくなっています。不動産業界で働いていて、その影響を感じることはありますか。

 

犬飼:これまでは2年契約のお客様が多かったのですが、最近ではEPが1年しか更新できない場合も多く、1年契約を希望される方も増えてきています。またお客様からも「いつ日本に帰ることになるか分からない」といった声が聞かれ、EPの新基準が適用されたことによる影響が出てきていると感じています。

 

AsiaX:最後に、参加者の皆さんから犬飼さんに質問はありますか。

 

松原:引っ越しや契約更新の時に、その地域の家賃相場を知りたいと思っています。どのように調べれば良いのでしょうか。

 

犬飼:都市再開発局(URA)がデータを公開しており、こちらが目安になるでしょう。
コンドミニアムはこちら:https://www.ura.gov.sg/realEstateIIWeb/rental/search.action
HDBはこちら:http://www.hdb.gov.sg/cs/infoweb/residential/renting-a-flat/renting-from-the-open-market/rental-statistics

 

 

田中:一般的に、部屋に関する保険はどうなっているのでしょうか。自分でも何か保険に加入しておいたほうがいいのでしょうか。

 

犬飼:部屋や家はオーナーの所有物となるため、通常はオーナーが損害保険などに加入しています。そのため個人で必ず保険に加入しなければならないということはありませんが、思い入れのある家具など、日本から持ってきたものに保険をかける方はいらっしゃいますね。

 

AsiaX:部屋探しには本当にいろいろなポイントがありますね。犬飼さん、最後に読者の皆さんに向けてメッセージをお願いします。

 

犬飼:女性の視点から、日本人の奥様や一人暮らしの女性のサポートができればと思っています。住居トラブルでシンガポールでの生活を楽しめないことにならないように、困ったり悩んだりした時は早めに専門家に相談するようにしてくださいね。

 

 

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