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第5回 シンガポールの自動車税

シンガポールは、ほとんどの商品の輸出入に関税がかからない自由貿易港として栄えてきましたが、酒類、たばこ製品、自動車、石油製品・バイオディーゼル混合の4分野だけは輸入関税・物品税が課せられています。今回は、その中の一つの自動車にまつわる税金について見ていきましょう。

 

日本人がシンガポールに来て、まずびっくりするのが自動車の値段です。シンガポール政府は、交通渋滞が経済に及ぼす負の影響に着目し、先手を打って対策に取り組んできました。自動車の値段が高いのもその政策の一環で、価格を高くすることにより消費者の購入意欲を抑えようとしています。シンガポールで販売される乗用車の価格にはどのようなものが含まれているか、以下の例で見てみましょう。

 

 

上記の例では、ディーラーがS$20,000で仕入れた自動車1台につき政府が徴収する税金などの合計がS$74,221と、小売価格の73%は税金で占められており、小売価格は輸入原価の5倍以上になっています。おかげで自動車諸税およびCOEは、法人税、商品・サービス税、所得税に次ぐシンガポール政府の第四の収入源であり、先般発表された2017年度予算案では92.5億Sドル(一般会計収入の13%)の予算が計上されました。

 

シンガポールで登録される自動車の総数は、統制の効果により緩やかな増加を維持してきました。しかし、1999年に電子式道路課金制度(ERP)が導入されたことにより、政府は、自動車の統制に関して、それまでの所有の抑制から道路交通量の抑制に主眼を移す方針を打ち出し、混雑する時間帯の道路の課金を引き上げる一方で、OMV・物品税・ARF・道路税をそれぞれ引き下げ、同時にCOEの割当数を増やして落札価格も下げ、より多くの人が自動車を購入できるようにしました。これにより、一般家庭にも乗用車が普及するようになり、自動車の登録台数は大きく増えて2009年には90万台を突破しました。前述の例に挙げた乗用車をその当時に購入した消費者は、恐らく6万Sドル以下で買えたのではないでしょうか。その頃から、朝夕の交通渋滞が目に見えてひどくなり、そのとばっちりを最も受けたのが、車も買えず駅からも遠くバスで通勤する人々です。同じ頃に生じた住宅価格の高騰と相まって、日常生活に対する不安や不満が国民の間に広がりました。政府は、一転して自動車政策の引き締めに転じ、COEの割当数を激減させたために落札価格が高騰し、自動車は再び庶民にとって高嶺の花となりました。2015年には10年前に大量に発行されたCOEの有効期限が切れたことにより割当数も再び上昇に転じましたが、新車は今でも最低8万Sドル以上はするため、一般家庭にとっては勇気がいる買物と言えるでしょう。

ちなみに2016年にシンガポールで最も売れたメーカーはホンダで、次いでトヨタ、マツダ、日産と、販売台数では日本車が圧倒的な人気を誇っています。ただ、COEの割当数が激減した2011年から2013年の3年間は、苦戦する日本車ディーラーを尻目にメルセデス・ベンツやB.M.W.は全くその影響を受けず、メーカー別年間販売台数で1位と2位になりました。さすが、富裕層に人気が高い車だけあります。一方、現代や起亜などの韓国車は、低価格車として一時人気を呼びましたが、COEが高騰してからは価格の魅力が薄れたのか、以前ほどの勢いはないようです。

 

 

自動車を登録すると、道路税の納付が必要になります。道路税は、半年または1年毎の前納制で、金額はエンジンの種類と排気量別に定められており、排気量が多くなるほど高くなります。例えば、前述の例に挙げた排気量1,600ccのガソリン車の場合、道路税は年間でS$744になります。ディーゼル車には道路税の他に特別税が課せられますが、今年度予算案では、ディーゼル車の利用を抑制するため、新たにディーゼル燃料1リットルにつきS$0.10の税金が課せられることになりました。それに伴い、特別税は乗用車の場合で年間S$100が減額されることになりました。

 

 

今年度予算案では、2019年から炭素税が導入されることも発表されましたが、自動車に関しては、2013年1月1日から二酸化炭素の排出量によってARFに加算または減額する炭素排出基準自動車制度(CEVS)が適用されています。2015年7月1日から2017年12月31日までに登録された乗用車の場合、A1からC4の評価によりS$5,000~S$30,000が加算または減額されます(最低S$5,000のARFを納付)。なお、2018年1月1日以後に登録される自動車は、二酸化炭素だけでなく一酸化炭素、炭化水素、酸化窒素、粒子状物質の5つの物質の排出量に基づいて評価する自動車排出ガス制度(VES)が適用され、乗用車の場合、A1からC2の評価によりS$10,000かS$20,000がARFに加算または減額されます。