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現地採用者の声!シンガポール生活編

昔からの目標だった海外就職をスタートしたみたものの、お金や住まい、勤務先での待遇など、生活にまつわる悩みはつきない……という人も多いのではないのでしょうか。今回の座談会では、シンガポールで現地採用として働く方に生活全般に関する現状や悩みなどについて語ってもらいました。普段はなかなか耳にすることのできない、現地採用者の生の声をお届けします。

 

RICOH (SINGAPORE) PTE LTD
ビジネスマネージャー
風呂井 郁子さん

 

1996年に日本語教師として来星し、1999年に中華系シンガポール人と結婚。海外旅行傷害保険会社の代理店や韓国系電子部品会社などを経て、2009年にリコーシンガポールに営業サポートとして入社。その翌年に日系企業の担当チームを結成し、現在は5人のローカルスタッフと、リコージャパンからの営業サポート1人を取りまとめる。

 

 

MACNICA ASIA PACIFIC PTE LIMITED
マネージャー
川口 潔さん

 

日本の大学を卒業後、自動車メーカー勤務を経て渡英し、英語学習のかたわら日本語教師を目指す。1995年に渡豪し中高一貫校で日本語教師の職に就く。同年12月にシンガポール人と結婚し来星、1996年から半導体商社に勤務し、2013年9月より現職。シンガポール生活は23年目を迎え、2男2女の父でもある。

 

 

PHOENIX ACCONTING SINGAPORE PTE. LTD.
ダイレクター 日本公認会計士
日浦 康介さん

 

日本の大学を卒業後、民間企業にてパークレンジャーとして勤務。その後、新日本有限責任監査法人に入所し、金融・小売・建設・電力業等の法定監査業務などに従事。2014年に来星し、現地採用としてErnst & Young LLPのSingapore事務所に勤務。2016年6月、Phoenix Accounting Singapore Pte. Ltd. に参画し、シンガポールでの法人設立や会計・税務支援を担当している。

 

MISA TRAVEL PTE LTD
Strategist (Edu&Japan Mkt) M.I.C.E.&Education Travel
山本 訓子さん

 

武庫川女子大学を卒業後、Ramada Hotel に勤務。1990年来星し、日本航空シンガポール支店に18年間勤務。1993年中華系シンガポール人と結婚。CTC Travel、Chan Brothersなど 旅行業界で27年間という豊富なキャリアを持つ。シンガポールでの暮らしは27年目を迎え、1男の母でもある。

 

 

AsiaX:本日はお集まりいただきまして、ありがとうございます。まずはシンガポールで働こうと思ったきっかけや、来星までの経緯について教えて下さい。

 

風呂井:日本にいる頃から英語が大好きで、いつか英語を使って海外で働きたいと漠然と思っていました。そのチャンスがないかと探していた所、日本語教師として中国、韓国、シンガポールの3つの国で日本語教師として働けるチャンスがあると知り、その中でも、英語が公用語であるシンガポールで働くことを決めました。日本語教師の資格は、シンガポールに来ることが決まってから半年で取りました。

 

日浦:高校生の時にアメリカに交換留学をし、その当時から将来は海外で働きたいという思いが強くありました。日本で就職後も準備をし、チャンスに恵まれた2014年、当時務めていた日本の監査法人のシンガポール事務所へ転籍しました。その後、転職して現在の勤務先で働いています。

 

川口:シンガポールに来る前は、オーストラリアで日本語教師として働いていました。当時、現地の大学で知り合ったシンガポール人との結婚を機に、シンガポールに行くか日本に戻るか迷っていました。その頃の日本はバブルが弾けて就職が大変だったこともあり、シンガポールで仕事を探すことを決めました。

 

山本:私はもともと旅行が好きで、母とシンガポール旅行を計画したことがここで暮らすきっかけになりました。母が急遽旅行を取り止め、一人でシンガポールに来たのですが、その時に旅先でお世話になった人とのご縁で、日本航空のシンガポール支店の面接を受けることになりました。当初は3年くらいで日本に帰るつもりだったのですが、気がつけばあっという間に27年が経っていました。


AsiaX:皆さん多様なバックグラウンドを持っていらっしゃいますね。シンガポールに来た当初、どのような感想をお持ちになりましたか。またどのような生活を送っていたのでしょうか。

 

川口:シンガポールは英語圏なので、言葉の問題はなく、オーストラリアと変わらない生活ができると思っていたのですが、実際に来てみると今まで自分がオーストラリアで話していた英語が通じず、最初は騙されたような気分になりました。海外生活も妥協の産物だなと思いましたね。

 

風呂井:私がシンガポールに来た頃は今と比べて給料も安く、毎日ホーカーセンターで食事をしていました。日本食なんて年に数回しか食べられなかったですね。日本では一人暮らしをしたことがなく、家に帰れば食事が用意されていた生活を送っていました。シンガポールに来てからは、自分で身の回りのことを全てしなければいけない環境になり、海外での生活は辛いなと思うと同時に、両親のありがたさが身に染みて分かりました。

 

日浦:休日は子供が遊べるところを中心に出歩いて、シンガポールを満喫しています。シンガポールは本当に奥が深い国で、四季はないですがエキサイティングな場所が多いと感じます。

 

山本:来星当時は仕事が忙しく、毎日夜遅くまで働いていました。週末にシンガポール人の友達とテニスをすることが唯一の楽しみでした。最近では、洗濯をしながらテレビを見て、家でゆっくり過ごすことが多くなりましたね。

 

AsiaX:シンガポールは世界的に見ても、治安が良くインフラも整備されているなど、働きやすい国として評価されています。実際にシンガポールで暮らす中で、この国で働くことのメリット、または大変なことについてどのように感じていらっしゃいますか。

 

風呂井:シンガポールは、子育てをする女性にも働きやすい環境であると改めて思います。日本の場合、子供ができたら仕事を辞めざるを得ないケースも多々あるようですが、シンガポールの場合は産休が取りやすく、職場復帰もしやすい環境であることがメリットだと思います。
また日本と違って、簡単にメイドを雇うこともできることは、働く女性にとってはありがたい環境ですね。

 

日浦:実際に暮らしてみないと分からない部分は多々ありましたが、生活費、特に医療費・教育費が予想以上に高いですね。それでも、自分の可能性に挑戦できること、多くの人と出会えることが何よりも嬉しいです。

 

AsiaX:医療費について勤務先がしっかりサポートしてくれることは重要ですね。皆さんの勤務先ではどのような待遇になっているのでしょうか。

 

川口:会社で保険を掛けてくれています。シンガポール島内にある約160箇所のクリニックと保険会社が提携しており、こちらでは支給されたカードを持っていけばキャッシュレスで受診できます。ただし歯医者の場合は、年間約200Sドルまでという制限があります。私の場合、これ以外に妻の勤務先の保険で家族全員をカバーできており、歯医者を受診するときは妻の分を使わせてもらうこともあります。
現地採用者の福利厚生については、会社の経営状態やトップの考え方にも左右されますね。前職で一度、コスト削減のために年一回の定期検診がなくなったことがありましたが、その後、新しく着任したダイレクターに相談したところ、また負担してもらえるようになったことがあります。

 



AsiaX:以前は、医療費として一人あたりの会社負担が月に30Sドル程度と上限が決まっている会社もあり、具合が悪くてもなかなか病院に行けず症状が悪化してしまうケースなどもあったようです。皆さんのお話をお伺いしていますと現地採用者の医療環境は徐々に改善されているということですね。
現地採用の場合、駐在員とは違って、身の回りのことを全て自分でしなければいけません。その中でも住まい探しは大変だと思いますが、皆さんはこれまでどうやって住む場所を見つけてきたのでしょうか。そこで苦労した経験も交えてお聞かせ下さい。

 

風呂井:最初は、勤務先の日本語学校の紹介で、コモンルームの1部屋を紹介してもらいました。その後は、新聞の広告を見たりエージェントに相談したりして、価格交渉もしながらひとりで部屋を探していました。ローカルのエージェントの場合、自分の希望をなかなか理解してもらえないのが辛かったですね。私の苦手な犬がいたり、キッチンが汚かったりと大変でした。
最初に借りたコモンルームでは、洗濯機を使えるのが週一回だけだったり、キッチンを使えなかったり、門限が夜中の12時だったりと決まりごとが多く、良い言い方をすればかなり規則正しい生活(?)を送れました。日本語教師の仕事が大変だったこともあり、朝早く家を出て夜遅くまで学校にいる生活を送っていたので自然と仕事に集中できていました。今となっては良い経験になったと思います。

 

川口:来星当初は妻の実家に住んでいました。結婚後は、妻の両親の空いていたHDBに引っ越したのですが、その両親の家族が後から同じところに住むことになったので、また引っ越しをすることになりました。シンガポールの場合、両親の家の近くに住めば補助金を受けられる制度があり、結局、両親の家の近くのHDBに住むことを決めて、そこに12年くらいは住みました。

 

AsiaX:現地採用の場合、駐在員と違って家賃も給料から払わなければいけません。これも悩ましい問題ですよね。

 

川口:確かに、現地採用で住宅手当が出る会社があるという話はあまり聞いたことがありませんね。会社によっては、基本給と住宅手当を分けているところもあるようですが、これは基本給を下げることで昇給率とボーナスを下げるのが目的なのかもしれません。

 

AsiaX:皆さんの中で、賃貸物件をめぐるトラブルに巻き込まれた経験のある方はいらっしゃいますか。

 

山本:アンモキオでお得なHDBの物件を見つけて購入したのですが、すぐにはそこに住まず、半年間そのまま空き家にしていました。友人のアドバイスで家の鍵を新しいものに替えに行った所、自分が知らない間に前のオーナーが、購入したはずの家に住み着いていたことが発覚しました。不動産屋や弁護士を通し、直ぐに立ち退いてもらいましたが、勝手に扉を交換されていたり、蛇口を取られたり、台所の床が割られていたりなどと後始末が大変でした。被害を受けた分を請求しようとしたのですが、仲介業者にはうまくごまかされてしまい、自分で直すしかありませんでした。HDBの契約の仕組みについて良く理解しておらず、エージェント任せにしていたという点で、自分自身の不覚であったと思います。

 

AsiaX:部屋を借りるにあたっては、契約書は事前にしっかり目を通しておく必要がありますね。英語の表現をひとつ誤解しただけで、重大なトラブルに発展する恐れもあります。
次に、現地採用の方のワークスタイルについてお聞きしたいと思います。駐在員と現地採用者の間で、仕事に対する考え方にギャップがあるという話を耳にすることがあります。実際、皆さんの職場で、現地採用者と駐在員で仕事への考え方や取り組み方が違うと感じることはありますか。

 

風呂井:駐在員の方は、任期が3~5年くらいの方が多く、現地のビジネスや社内での仕事の進め方などについて、どうしても日本の基準で考えてしまいがちです。日本のやり方がそのままシンガポールで通用すると考えている人も少なくないかもしれませんね。そうした意識のギャップを埋めるのが、現地採用で働く私たちの役目でもあるのではないでしょうか。

 

川口:駐在員には本当によく働く方もいらっしゃいますし、現地採用の人にもいろいろな考え方の人がいるので、一概にこうだとは言えませんね。現地採用の人の一部には「バリバリ働くのは駐在員の役目」と考えていて、「この仕事は自分のやることではない」と主張する人もいます。
私の場合、家族と一緒に過ごせるかどうかが仕事を選ぶうえでのポイントです。一度タイで、駐在員待遇で働かないかという話があり、毎週末、シンガポールにいる家族の元へ帰らせてもらえるならと交渉したことがありますが、結局、別の人が行くことになりました。私はシンガポールで現地採用のまま働くことになって今に至っています。会社命令であちこち飛ばされることに抵抗があったのも、現地採用として長く働いている理由なのかもしれませんね。

 

日浦:前職において駐在員は平日朝から夜遅くまで、さらに週末も働いていました。また現在も、周りにいるのは資格を持ったその分野のプロたちで、意識の高さにとても刺激を受けています。

 

AsiaX:今年1月からエンプロイメント・パス(EP)発行についての新基準が適用されるなど、現地採用者をめぐるシンガポールでの就労環境が大きな変化を見せています。今の状況をどのようにご覧になっていますか。

 

風呂井:私もシンガポールに来た当初はEPで働いていました。当時は、日本で数年の就業経験があればEPは取得できていたのですが、今では学歴や年齢まで見られるようになっていて大変だなと思います。

 

AsiaX:この厳しい状況の中で、これからシンガポールで現地採用として働きたいと考えている方に対して、メッセージをお願いします。

 

風呂井:海外で生活するとなると、やはり当初思っていたことと違うことがどうしても出てきます。それでも、ここで腰を据えてやっていくという覚悟を持つことが大事です。少しのことで弱音を吐いているようでは、海外では生きていけないと思います。

 

日浦:海外で働くことは日本と違うこともありますが、様々な人に出会い、いろいろなことを肌で感じることができるのが魅力ですね。ここに来てから、日本人ももちろんそれ以外の国の人達とも素晴らしい出会いがありました。自分の子供やこれからシンガポールに来る方にも、そうした出会いをぜひ経験してほしいと思います。
一方で、時には厳しい現実も待ち受けていますが、迷った時にはリスクがあってもワクワクするような道をぜひ選択してほしいです。理論や理屈ではなく、出会いが人を変えて成長させてくれるのだと強く思います。

 

山本:夢と現実との間にギャップが生まれることはどうしてもあります。それでも、怯えずに海外での仕事にどんどんチャレンジするべきだと思います。特に海外でのいろいろな人との出会いは、人生の宝物になると思いますよ。また改めて日本の良さをよく分かるようになります。

 

川口:シンガポール人には、日本の文化などに関心を持つ人が多く、歴史や文学など日本のことをよく聞かれます。時には「日本人なのにそんなことも知らないの?」と言われることもあるくらいです。シンガポールに限ったことではないのかもしれませんが、海外で暮らすにはまず自分たちが生まれた日本のことをよく知っておくことが大事なのではないでしょうか。