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リオデジャネイロ2016パラリンピック 金メダリスト イップ・ピンシウ選手

人生で大事なのは、自分の目標に向かって努力し続けること

 

今年、世界が注目したリオデジャネイロオリンピック。男子100mバタフライ決勝では、シンガポールのジョセフ・スクーリング選手が、4連覇を狙った米マイケル・フェルプス選手を抑えて初のオリンピック金メダルをもたらしたことは記憶に新しい。しかし、それに続いて行われたリオパラリンピックで2つの金メダル獲得という、シンガポール初の偉業を成し遂げた選手がいるのをご存知だろうか。女子背泳ぎ(S2クラス)のイップ・ピンシウ選手。今回、彼女の選手生活やプライベートについて、また東京パラリンピックへの展望などについて伺った。

 

写真提供:Sport Singapore

 

―水泳を始めたきっかけを教えてください。

私は6歳のときに水泳を始めました。上に2人の兄がいるのですが、もともとは彼らが水泳を習っていたんですね。ある日、家族で練習に同行した際、私は兄たちの練習する様子を子供用プールで遊びながら見ていました。しかしだんだんと飽きてしまって、自分も同じように習いたいと母親に頼んだんです。それがきっかけで水泳を始めることになりました。それからどんどん楽しくなって、背泳ぎだけでなくさまざまな泳ぎ方を習い、12歳で競泳の世界に入ることにしました。今でも泳ぐことは大好きです。水の中にいると何でもできるし、とても自由でいられるんです。

 

―今年のリオパラリンピックで2つの金メダルを獲得されましたね。どのようなお気持ちか教えてください。

まずはシンガポール代表として金メダルを獲得できて、非常に光栄なことだと思いました。それと同時にほっとした気持ち、嬉しい気持ちなどが次々に湧いてきて、いろいろな感情がない混ぜになった複雑な心持ちでしたね。レース前はさすがに緊張しましたが、好きな音楽を聴いて集中力を高め、うまく試合に臨めたと思います。レースが終わった後、両親がとても喜んでくれ、「誇りに思う」と言ってくれたので、親孝行ができたかなと思っています。

 

写真提供:Sport Singapore

 

―アスリートとして日々気をつけていることはありますか。

毎日の生活の中で意識していることは多岐にわたります。早寝早起きをする、高タンパク質の食事を心がけ脂肪の多い食事は避ける、アルコールは摂らない…などなど。精神面で言えば自分の頭の中でゴールを達成するイメージを繰り返す、メンタルトレーニングなども行っています。よいアスリートであるためには、泳ぐ練習や筋力トレーニングだけをしていればいいというわけではなく、そのバックグラウンドまで含めて気を付けなければいけないんですね。
また、ルーチンに従って行動することも大切にしています。そうすることで余計なことを考えなくて済みますし、自分がすべきことに集中できます。何かを過度に心配する必要もありません。私はいつも通りプールに行き、自分の最善を尽くすだけでいいんです。ルーチンに従うことで、全てのものごとをうまくコントロールできている気持ちになれますし、「全てが変わりなく、何も心配しなくてよいのだ」という安心した気持ちになれます。

―アスリート生活で大変なことは何ですか?

大変なことと言えば、皆さんと同じく朝早く起きるのが辛いことでしょうか(笑)。練習がある期間は5時半に起床しています。自分がすぐに起きられないことを知っているので、目覚まし時計のスヌーズモードは欠かせません。6時半にはプールサイドに行きウォーミングアップなど準備を整えます。7時から練習がスタートし、夜9時までずっと続きます。シャワーを浴びて家に帰るのは22時過ぎになりますね。プールのあとにジムで食事を摂ると23時を過ぎることもあります。
大変なときもありますが、いつも「これをすることが、最終的に自分の望む結果につながる」と自分に言い聞かせています。例えば、正しく食事を摂っていれば、自分の身体のコンディションを良く保つことができ、結果として早く泳ぐことができます。全ての物事についても同じだと思っています。

 

―シンガポールの練習環境についてはいかがでしょうか。

とても満足しています。普段練習しているシンガポールスポーツハブは新しい施設で設備も整っていますし、屋内プールのため天候を気にする必要もありません。やはり日々のことですから、恵まれた環境のなかでストレスなく練習できることはありがたいことだと思っています。

 

―障がい者スポーツの認知度を高めるイベントなどにも積極的に参加されていますが、どういったお考えがあるのでしょうか。

ひと昔前までのシンガポールでは、パラスポーツに対する認知度は非常に低いものだったと思います。それが、北京パラリンピックでシンガポール代表選手が金メダルを獲得し始めてから、年々、認知度は向上してきました。そして昨年の12月にASEANパラゲームズがシンガポールで行われたことは、さらに注目を集めるきっかけになったと思っています。私がこういったイベントに参加するのは、パラスポーツの認知度を向上させるというのはもちろんですが、障がいを持った方々に「目標を定めてそれに向かい一生懸命努力すれば、たとえ障がいがあったとしてもいつか達成できる」ということを伝えたい、という気持ちが大きいですね。

 

―少しプライベートについて聞かせてください。お休みの日は何をされているのでしょうか?

現在は日曜日が休みなのですが、ほぼ寝て過ごしていることが多いです(笑)。それ以外で言うと、平日は練習ばかりで家族との時間をとれないので、できる限り家族と過ごすことを心がけています。5ヵ月になる甥っ子がいるのですが、一緒に遊ぶことでストレスが解消され、癒されています。
現在、シンガポールマネージメント大学(SMU)に通っていて、1月から5月までは大学に通学し、6月から12月までは水泳のトレーニングに専念するというスケジュールで動いています。シーズンオフの時期は普段に比べて時間ができるので、友達とカフェに行ってお喋りをしたりご飯を食べたりもします。その点は普通の大学生と変わりはないと思いますね。

 

―日本に関してはいかがでしょうか。今までに行ったことのある場所や好きな食べ物はありますか?

2007年に行われたジャパン・オープンの試合に出場するため、1度だけ大阪に行ったことがあります。短い滞在ではありましたが、試合後の空き時間を利用して市内観光をしたことが印象に残っています。道頓堀に行って、お店を見て回ったりご飯を食べたりしましたね。また行きたいと思っていますが、なかなか時間が取れずにいます。日本食も好きで、ちらし丼やラーメンなどはシンガポールでも食べますよ。

 

―イップさんの信条を教えてください。

たくさんあってなかなか絞りきれないのですが、「やらぬ後悔よりやる後悔」でしょうか。自分のやりたいことや目標に向かって挑戦したなら、そこに後悔は生まれません。しかし、もし何もしなかったとしたら、その先ずっとそのことを考え引きずることになるでしょう。人生において大事なことは、目標を持ちそれに向かって絶えず努力することだと思っています。

 

―最後に、次の目標を教えてください

2020年の東京パラリンピックに出たいという気持ちはありますが、その頃には若いとはいえない年齢になっていますし、身体のコンディションのことなどもあるので、どうなるかはまだ分かりません。まずは来年、大学を無事に卒業してトレーニング生活に戻り、またシンガポールのスポーツシーンに戻ってきたいと思っています。