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マーケティング編 最終回 死生観がマーケティングを変える

前々回、お客様が買うものは「約束」であり、他社が真似できない卓越した約束を守り続けることによって初めて、信頼され繁栄し続ける企業は作られていくということをお話ししました。そして前回、お客様が買わないものは「リスク」であり、お客様が負っているリスクを会社が背負って初めてフェアな取引が成立し、それができる会社とあなた自身の器が業績を伸ばすということをお話ししました。

 

今回は、どうやってそれを実践するのかについてお話ししたいと思います。それは一言で言えば「誠実になる」ということに尽きるのですが、では、誠実とは一体どういうことなのでしょうか。

 

その答えは、「誠実」という漢字が教えてくれます。「誠実」の「誠」は、「言葉が成る」と書きます。「偽りなき真実の言葉は必ず成就する」ということです。言行一致、有言実行。それが誠実という言葉の本質です。「そんなの当たり前じゃないか」と思われるかもしれませんが、果たしてあなたはどれほどの覚悟でそれを行っているでしょうか。

 

その「覚悟」とは何か、また「約束を守る」ことの意味、「リスクを取り除く」ことの意味については、日本の武士道精神が重要な示唆を与えてくれます。「武士に二言はない」と言われますが、これは、一度口にした約束を破ることは、武士にとっては死を意味する、ということを表します。約束を破るくらいなら、命を捨てるということです。そうしないことは生き恥をさらすことになります。命を賭けても約束を守るという覚悟が信頼を獲得し、尊敬を集めるのです。

 

その覚悟、すなわち死生観によって、マーケティングだけではなくマネジメントも変わります。リーダーであるあなたが、「命を賭けても約束を守る」という覚悟を示せば、スタッフの仕事に対する真剣さ・緊張感は全く異なるものになるでしょう。

 

私は、ビジネスの世界で文字通り命を賭けなければならないと言うつもりはありません(創業1400年を超える日本最古の企業「金剛組」の37代当主、金剛治一は営業で仕事を取ることをよしとせずに経営不振に陥り、「先祖に申し訳ない」と代々の墓前で自害しましたが……)。しかし、その覚悟がどれだけ本気のものかを行動で示すことは必要です。

一つ具体的な事例を挙げます。とあるオール電化リフォーム専門の会社が、1年で売上を年商28億円から40億円まで成長させた施策の一つに「リフォーム安心保証」というものがありました。これは、もしお客様がリフォーム工事に満足しなければ、30日以内であれば工事代金を全額返金するという保証です。

 

しかも、保証はそれにとどまりません。当然のことですが、住宅のリフォームではそれまでの設備を壊したり、取り外したりして新しい設備を据え付けます。それが気に入らなかった場合、施主としては、「元のままのほうが使いやすかったのに」と思うはずです。そんな場合の対応として、工事代金を返金するだけでなく原状回復も行い、その工事も無償で行なうと保証したのです。

 

これを行うことは当然会社側にリスクを伴います。しかしそれは、お客様が負っているリスクがそれだけ大きいということです。そのリスクからお客様を守るために、言葉ではなく実際の行動で示すことによって、初めてお客様から信頼が得られます。

 

「お客様への約束」「お客様を大切に」「誠実な姿勢で取り組みます」……このような美辞麗句を掲げるだけなら誰でもできます。しかし、どれだけ言葉を並べたところでお客様には伝わりません。従業員にも伝わりません。その言葉が本物であることを行動で示した時に初めて、あなたの思い・理念がお客様に伝わり、それが売上に変わるのです。経営とは「仕組み化」であるとはよく言われることですが、「何を」仕組み化しなければならないかを問われることはあまりありません。もっとも仕組み化すべきはあなたの理念であり、それが企業を飛躍させる原動力となるのです。

 

今回をもちまして連載は終了となります。これまで6回に渡りお伝えしてきたことが、お役に立てていれば、無上の喜びです。お付き合い頂き、誠にありがとうございました。