世界各都市の生活費ランキングで、3年連続1位となったシンガポール。中でもとりわけ値段が高いと言われるのが「お酒」。シンガポールのお酒はなぜ高い? 個人の持ち込み量の免税範囲は? など身近な話題から、シンガポール国内のお酒の消費量や昨今の日本酒ブームなど、シンガポールのお酒にまつわるあれこれを探ってみました。
目次
ちょいと一杯……のはずがなぜ高い?お酒にかかる税金
シンガポールのスーパーや小売店を覗くと、ビールなどの価格は日本と比較しても大差はありませんが、ワインや日本酒、焼酎などは大きく差があることが分かります。その大きな理由はシンガポールの酒類に対する課税制度の違い。シンガポールでは含まれるアルコールの割合によって課される税額が変わってくるのです。
シンガポールに酒類を輸入する場合、ビールは1リットル当たり輸入税(Customs Duty)が16Sドル(約1,300円)、物品税(Excise Duty)が60Sドル(約5,000円)かかるので、計76Sドル(約6,300円)が基準となり、これにアルコールの割合をかけたものが実際に課される額となります。ビール以外の醸造酒(日本酒、ワインなど)や蒸留酒(焼酎、泡盛、ウイスキー、ウォッカなど)は基本的に輸入税はありませんが、物品税として1リットル当たり88Sドル(約7,300円)という規定額にアルコールの割合をかけたものが課されます。
例えば、アルコール分25%の焼酎のボトル1本(720ミリリットル)あたりのシンガポールでの税額は、0.72(リットル)×88Sドル(物品税)×0.25(アルコール度数)=15.84Sドル(約1,310円)となります。上記の計算に基づき、特定のアルコール度数について1リットル
当たりの税額を日本とシンガポールで比較したものが上の表(表1)になります。輸入大国シンガポールにあっては酒類も輸入がほとんど。日本で手軽に楽しんでいた日本酒やワイン、焼酎などが高い理由が納得いただけるのではないでしょうか。逆にシンガポール国内産のビールには前述の輸入税が課されないため、当地で生産されるタイガービールやアンカービールなどは比較的手頃なのです。さらに、輸送の際、デリケートなお酒には専用のコンテナが使用されるなど、税金に加えて輸送費というコストもシンガポールの「一杯」をますます高くしているのです。
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どれくらいまでOK?個人でのお酒の持ち込み量
シンガポールへ個人が免税範囲で持ち込めるお酒の量は、下記の3パターンになります。
例えばワインを2リットル持ち込む場合、ビールは1リットルまで免税となります。ちなみに養命酒や料理酒もワインに区分され課税対象になります。持ち込み量が免税範囲を超える場合は、シンガポール入国の際に税関で赤のラインに並び、申告および納税が必要です。また、シンガポールを出国してから48時間未満およびマレーシアから入国の場合、上記の免税は適用されません。
ちょっとフクザツ!? 酒類販売ライセンス
レストランでお酒を追加しようと思ったら「できない」と断られてしまった。ついさっきまでは快くオーダーに応じてくれていたのに……という経験はありませんか? それは酒類販売ライセンスによる制限かもしれません。シンガポールにおいて酒類の小売りあるいは卸売りをする業者は、酒類販売ライセンスを取得する必要があります。飲食店など店舗内販売をする酒類販売ライセンスには3つの種類があります(表2)。
ビールハウスライセンスは一律で酒類の提供時間が朝6時から夜12時までなのに対し、パブリックハウスライセンスは朝6時から夜10時まで、または朝6時から夜12時までという提供可能時間の違う2つのライセンスに分かれます。ライセンス費用も前者は2年間で1,320Sドル(約11万円)、後者は同1,760Sドル(約14万6,000円)となっています。なお、屋外のビール売店は酒類ライセンス局(LLB)によって提供可能時間が決められます。
あのお酒が急成長……日本からのお酒の輸入状況
ビール
シンガポールの人々の間ではビールの人気が高く、日本のビールも多くのファンを得ています。過去5年の日本からのビールの輸入状況を見ると、特に2014年までの輸入量の増加は顕著で、2011年は輸入量が約200万リットルであったのに対し、2014年には300万リットルを突破しています(表3)。今ではアサヒやサントリー、キリンといった大手の企業の商品だけでなく、日本各地の地ビールも輸入されるようになり、クラフトビール専門店などでさまざまな種類の日本産ビールを見かけることも珍しくなくなりました。しかし2015年は260万リットル台という前年比13%の下落を見せ、ブームもひと段落してきた様相です。
日本酒
シンガポールでも近年、日本のお酒を楽しむ人が年々増加、日本酒がブームとなりつつあります。日本食レストランはもちろん、洋食の高級レストランやバーでも「SAKE」というカテゴリで種類豊富な日本酒がメニューに並ぶようになりました。日本人だけでなく、日本酒を楽しむシンガポール人や外国人の姿を見かけることも多くなってきました。過去5年間を振り返ると、2012年に東日本大震災の影響もあり落ち込んだ輸入量も2013年には回復し38万リットル、さらに2014年には40万リットルを突破しました(表4)。2015年もほぼ横ばいの輸入量を記録しています。日本の地方自治体、メーカーによるプロモーションも活発に行われており、今後も日本酒ブームはまだまだ続きそうです。
ワイン
日本からのお酒の輸入量全体から見るとワインの輸入量は少ないですが、年によってかなり変動が見られます(表4)。2011年の輸入量は約6,000リットルでしたが、翌2012年には1万8,885リットルへと3倍の急増。しかし2013年には再び急減し8,446リットルに。しかし2014年に1万2,570万リットルとなり、2015年も順調に推移しています。グラフには表示されていませんが、2014年と2015年とでスパークリングワインの輸入量を比べると、約22%の伸びを見せています。
ウイスキー・焼酎、その他
ウイスキーは近年一番動きのあったお酒と言えるでしょう。2011年に3万8,000リットルを超えた輸入量は、翌2012年には約5万リットル目前になり、ついに2013年には7万リットルを記録。その後も破竹の勢いで輸入量は増え、2015年には25万リットルを突破しました(表4)。前年比90%の大躍進です。この背景にはここ数年、日本のウイスキーが海外で国際的な賞を相次いで受賞するなど、日本産ウイスキーが世界的ブームになっていることが考えられます。
焼酎に関しては、単独の輸入量のデータがなく、ウイスキー、ブランデー、ウォッカなどを除いた蒸留酒の一部、という扱いになっています。2014年まで20万リットル台を推移していましたが、2015年は約17万リットル台にまで下降しています(表4)。
またグラフには表示されていませんが、梅酒や養命酒もシンガポールでは人気があり、お酒を扱っているスーパーなどで見つけることができます。
シンガポールの日本酒事情-INTERVIEW-
先の統計にも見られるように、近年シンガポールで盛り上がりをみせる日本酒。数年前と比べて状況はどう変化しているのか、当地で日本酒の輸入および卸売りを行い、また酒屋兼バー「折原商店」や焼き鳥店「酉玉」を経営するORIHARA(PTE.)LTD.の髙田博孝さんにお話を伺いました。
-当地に進出された頃の状況についてお聞かせください
我々が進出した2008年頃、シンガポールでは「黄色い」日本酒が出回っていました。日本酒は紫外線の影響で、変化すると黄色になるんです。日本酒は冷暗保管が基本ですが、シンガポールで好んで飲まれていたお酒はウイスキーやビールなどが中心のようで、あまり温度を気にしないで取り扱っていたようです。そんな中、日本酒も同様に扱われていたようで、日本酒とはそういう風味・色だと思われていたんです。またその頃飲まれていた銘柄は、日本でCM放映されているような大手のメーカーのものがほとんど。地酒と言われるものはまだ飲食店ではほとんど扱われておらず、デパートに八海山や久保田などが一部並んでいる程度でした。
-現在、人気の日本酒の品質管理に対する意識は改善されているのでしょうか
品質管理については、流通業者はもちろん、お酒を提供するお店側も冷蔵庫を用意するなどの投資が必要になります。吟醸酒など繊細な香味を楽しむ酒や、フレッシュな風味が特徴の生酒などの日本酒は冷蔵管理が基本であり、管理の方法によって全く味が変わってしまうこと、この点を理解してもらうことに大変苦労しました。最近ではやっと一定の理解を得られ、結果として品質保持の向上につながっていると思いますね。
-当時と今を比べて、ローカルの人々の日本酒に対する認識に変化はありましたか
以前、梅酒はシンガポールの人々に「チョーヤ」と呼ばれていたんですよ。「梅酒」という名前自体も認知されていない状態だったんです。ところが現在では輸入される地酒の種類も増え、シンガポール人の日本酒に対する知識のレベルは相当高くなっていると思います。また、日本酒そのものを好意的に捉えてくれる人が多いとも感じます。
-シンガポール人の好きなお酒の特徴を教えて下さい
暑い国なので、熱燗に合うようなお酒は好まれない傾向にありますね。軽くてスッキリ、香りが華やかなもの、例えば純米吟醸酒、大吟醸酒が好まれる傾向にあると思います。もともと日本酒は食中酒であり料理と一緒に楽しむという考え方が一般的ですが、シンガポール人は食事の際にアルコールを飲まない方が多いので、食後に楽しめるものが人気です。
-当地では今も日本食レストランが人気ですが、今後も和食ブームに乗って日本酒も広がりをみせると思いますか?
和食レストランと日本酒が全く同じ広がりを見せるとは思いませんが、日本酒はやはり日本の食べ物に合うお酒なので、和食の人気が日本酒の人気を後押しする部分はあると思います。そういう意味では、和食の人気がある場所で日本酒が売れる、と言えるのではないでしょうか。