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グローバル時代の戦略経営 - Globalization as Learning

2014年5月19日

現実を定義する力が、未来を拓く

  1. 営業部門:「新しいチャンスだ、目の前の顧客から受注をしたい」
  2. 開発部門:「未来のために、次世代技術の開発が最優先だ。今のことは最小限のパワーでやるしかない」
  3. 経営者:「スペックや価格競争の先に未来はない。モノの価値だけでなく、コト創りによる新たな価値を創造しよう」

 

これは、ある機械メーカーA社で実際に起きていることだ。1は現在に起きていることに対応しようとしている行動、2は3のビジョンにもとづいた未来のために仕事をしている。誰もが自らの仕事に必死で取組んでいるのだが、残念なことに、現在と未来が分離した状態が見えてくる。この状態のなかで、あなたがこの企業の事業部門のリーダーだとしたら、どんなリーダーシップを発揮するだろうか?

 
リーダーシップを考えるにあたり、二人の賢人の言葉から学びを得てみよう。

「リーダーの最初の責任は、現実を定義することである」(Max De Pree “Leadership is an Art” 翻訳版『リーダーシップの真髄』)

「重要な問題は、その問題を作ったときと同じ考えのレベルで、解決することはできない」(A・アインシュタイン)

 

 

我々は、過去・現在・未来という大きな時間の流れの中で、今に生き、仕事をしている。そこで問題になるのが、それぞれのメンバーが、それぞれの思う「いま・ここ」に生き、仕事をしている、ということだ。つまり、各人のマインドに存在する「いま・ここ」の認識=前提が、バラバラなのである。そこで、Max De Preeの「現実を定義する」という言葉が大きな意味を持ってくる。また、戦略の転換をもたらすような新しい現実の定義は、これまでの常識、それぞれが当たり前だと思い込んでいる既成概念を超えた、より高いレベルの世界観からしか生まれないだろう。それが、アインシュタインの言及する「問題が起きたときとは異なる考え方のレベル」につながっていく。

 

 

A社の現実に戻ろう。
A社の社長は、オーナー企業ということもあり、深い目的意識とビジョンを持ったカリスマ的なリーダーだ。ところが、日常の仕事においては個々の出来事レベルの対処の判断基準は、ビジョンとはベツモノになっている。

 
営業部門のリーダーは、持ち前の営業センスと経験からくる直観力で市場のチャンスを読み取り、営業戦略を立て、行動する人物だ。部下は、その背中を追うしかない。
開発部門には、役職上のリーダーはいるが、リーダーシップが存在していない。目の前に起きる問題に対処しつつも次世代技術開発に取組もうとしているが、遅々として進まない。なぜなら、目の前に起きている問題の根源を突き止めることができておらず、同じ問題が何度も起きてしまう悪循環に陥っているからだ。

 

 

この状態から脱出するための長い思考錯誤の後、A社は、経営層と部門長層が集い、月に一度、戦略ワークショップを始めた。

 
ワークショップでは、今まさに起きていることを題材に、新たなコト創りによる価値を提供するという戦略コンセプトに基づき、対話を重ね、課題を絞り込み、仮説の検証を重ね、修正する。そして、この場から学んだものを、彼らは今日の仕事の実践に持ち込んでいく。この一連のプロセスの軸にあるのは、Mindful Dialogueを通じたTeam Learningだ。ワークショップでは、「いかにビジョンを実現するのか」の正解を見出そうとするのではなく、現実を共に観て、共に考え、新たな現実の定義を共に創造し、そこから現在の行動を起こしていく力、組織の学習能力を促すのである。このプロセスを通じて、ビジョンを語り、現実から戦略を立て、変化を構造的に捉える力を持ち、さらにその学習をメンバーに促すリーダーシップが開発されていく。

 
A社の社長は、このワークショップを、新たなマネジメント開発をする継続的な仕組みとして位置付けた。自分も社員も、最重要課題に集中できる仕事にしていくことが戦略であり、戦略を機能させることだと気付いたからだ。

 

 

今をよりよく生き未来へバトンを渡すために、戦略的なリーダーシップを発揮する経営トップレベルのマネジメントにこそ学習が必須であり、それを実現するためには、経営システムの根幹に継続した学習の仕組みが必要なのだ。

 

文=高橋秀紀(たかはしひでき/Scholar Consult Asia Pte Ltd 代表)photo1

日本で約30年の歴史を持つ組織風土改革を専門としたコンサルティングファーム、株式会社スコラ・コンサルトの代表も務める。Scholar Consult Asia 公式ブログでは、戦略経営について、チームワーク開発、リーダーシップ開発、事業戦略開発、事業システム・プロセス開発の4領域から情報発信している。

 

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TEL : 6823-1237

※この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.257(2014年05月19日発行)」に書ききれなかった内容・補足をご紹介しています。

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