2026年7月14日
「頭脳流出」ではなく「頭脳循環」 ジョホール州のシンガポール就労を経済学者が評価
マレーシア・ジョホール州で、シンガポールへの人材流出を「頭脳流出(ブレインドレイン)」ではなく、「頭脳循環(ブレインサーキュレーション)」として前向きに捉えるべきだとの見方が、経済学者の間で広がっている。高賃金を求めてシンガポールで働くジョホール州民は、州経済や人材育成にも利益をもたらしており、一方的な人材流出とは言えないとの考え方である。
議論の背景には、ジョホール州議会選挙で「優秀な若者がシンガポールへ流出している」との懸念が示されたことがある。しかし、経済学者らは、多くの越境通勤者がジョホール州に居住したままシンガポールで働いており、得た収入の大半を地元で消費している点を指摘する。シンガポールドル高の恩恵により購買力が高まり、地域経済への波及効果も大きいとしている。
さらに、シンガポールで培った経験や知識をジョホール州へ持ち帰ることも重要な利点とされる。時間厳守や生産性向上、顧客サービス、技術力、国際的なビジネスネットワークなどを身につけた人材が地元企業で活躍することで、州全体の競争力向上につながるとの見方である。このように、人材が国境を越えて経験を積み、再び地域へ還元する循環こそが「頭脳循環」の考え方である。
一方で、ジョホール州をシンガポールと競合する地域ではなく、「補完し合う経済圏」と位置付けるべきとの提言も出ている。その中核となるのが、現在整備が進む「ジョホール・シンガポール経済特区(JS-SEZ)」である。製造業や物流、サービス業などで両地域が役割を分担することで、双方の経済成長を促進する「ツインエコノミー」の実現が期待されている。
ジョホール州からシンガポールへの越境就労は長年続く現象であるが、近年は単なる人材流出ではなく、所得、技術、経験を地域へ還元する新たな成長モデルとして注目されている。今後はJS-SEZの進展とともに、人材の流動性を競争力向上へどう結び付けるかが、両国共通の重要な課題となりそうである。

