2025年11月6日
上場企業取締役の報酬に下方圧力 2025年は5万Sドル未満が増加
シンガポール上場企業の取締役報酬が低下傾向にあることが、シンガポール取締役協会(SID)がデロイト社およびハンドシェイクス社と共同で実施した2025年調査(11月4日発表)で明らかになった。報告書によると、報酬5万Sドル未満の取締役の割合が独立取締役で29%(2023年は16%)、非独立・非業務執行取締役で34.7%(同18.1%)に上昇した。
一方、10万1〜15万Sドルの報酬帯に属する独立取締役は2023年の42%から20.6%へ減少。同区間の非独立・非業務執行取締役も35%から17.4%に低下しており、全体的に報酬水準に下方圧力がかかっていることを示している。共同執筆者である香港城市大学のホー・ユウキー教授は「取締役報酬が全体的にやや抑制されている兆候」と分析した。
ただし、今回の結果は、2023年に導入された開示義務の強化により報酬情報を公表する企業が増えた影響もあるとされる。報酬の内訳や業績との連動性を明示する企業は依然として限られており、報告書は「固定給・変動給・株式報酬・福利厚生などを詳細に開示すべき」と提言した。
報告書は会計企業規制庁(ACRA)とシンガポール取引所(SGX)の支援を受け、香港城市大学、南洋理工大学(NTU)、シンガポール工科大学(SIT)などが分析を担当。時価総額の大きい企業ほど高額報酬の取締役が多く、100,001〜150,000Sドル帯に集中している。
また、CEO兼取締役の26.5%が100万Sドル超を受け取っており、取締役の中で最も高収入層となった。CEO報酬を詳細に開示する企業の割合も2023年の約26%から2025年には69%超へ急増。これはSGXの新上場規則と透明性向上への期待を反映したものだという。
SGX規制部門のマイケル・タン氏は「当初は報酬開示による人材引き抜きへの懸念もあったが、株主への透明性は不可欠」と述べた。
女性取締役の割合は過去10年でほぼ倍増したものの、依然として取締役全体の8割超(約3,100席)が男性である。女性取締役がゼロの企業は2025年時点で30%に減少(2014年は56%)したが、複数の女性取締役を擁する企業は全体の29%にとどまる。オーストラリア(上位100社で女性比率39.3%)と比べると依然低水準だ。
デロイト・シンガポールのシャリク・バーマキ代表は「単なる人数増ではなく、多様な視点が健全な議論と意思決定を生む」と強調した。
取締役の中央値年齢は60歳で横ばいだが、2023〜24年に任命された独立取締役の約半数が初任で、64%が60歳未満と若返りが進む。これは、2023年導入の「9年上限ルール」(独立取締役の任期を9年に制限)が再編を促した結果である。
SGX RegCoのタン・ブーンジンCEOは「以前は長期在任の独立取締役が多かったが、上限制が導入されたことで更新と多様性が進んだ」と評価。今後も取締役会のスキルマトリクス開示や多様性目標の設定など、実効性あるガバナンス改革の深化が期待される。


