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社会

2025年11月4日

未婚の母、自ら娘を養子に

 シンガポールで金融業に携わる34歳の女性が、自らの2歳の娘を養子に迎える手続きを進めている。理由は、娘に「非嫡出子」という法的・社会的烙印を背負わせたくないためである。
 
 ナタリー(仮名)は語る。「非嫡出という言葉は、子どもの存在が劣っているような印象を与えます。養子縁組は、私たちが真の家族であることを示す方法です」。
 
 娘は未婚のまま出産した子で、実父とは一度も会っていない。父親は子どもへの一切の権利と責任を放棄し、養子縁組に同意した。ナタリーはこれにより、娘と元交際相手との法的なつながりを完全に断ちたいと考えている。
 
 2020年から2024年の5ヵ年で、シンガポール人の母親から年間平均745人の非嫡出子が誕生しており、そのうち12人が実親によって養子縁組されたことが国会答弁で明らかになった。
 
 1934年制定の「正統化法」によれば、両親が婚姻関係にない状態で生まれた子は「非嫡出」とされ、結婚または養子縁組によってのみその地位が変わる。
 
 社会・家族開発相マサゴス氏は、教育、医療、保育などの支援は婚姻の有無にかかわらず受けられると述べたが、「ベビーボーナス」や税控除といった恩典は結婚を奨励する目的のため、未婚親には適用されないと説明した。
 
 法律専門家ドロシー・タン氏は、未婚親が自ら子どもを養子にするのは「もう一方の親との法的関係を断つため」であり、将来の親権や面会請求を防ぐ狙いがあると述べた。
 
 他の弁護士も、養子縁組によって子どもが母親の財産を相続できるようになるなど、法的保護の強化が目的の一つだと指摘する。また、シンガポール社会に根強く残る婚外子への偏見を取り除く意味合いも大きいという。
 
 ナタリーは今年1月に養子申請を開始し、現在も審査が続く。養子認可のため、家族背景や精神状態、育児能力などの詳細な調査を受けた。費用は法的手続きや審査料を含め約6,000Sドルに上る見込みだ。
 
 「自分の子どもを育てられると証明する過程は精神的に苦しかったが、同時に母親としての自信を取り戻す機会にもなった」と語るナタリー。彼女にとってこの養子縁組は、過去の痛みを断ち切り、娘と共に新しい人生を築くための「癒やしの儀式」でもあるという。

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