2014年7月21日
増加する日系企業のオフィス拡張・移転(続)
前回に続き、オフィス拡張・移転について解説する。
7. 戦略的オフィス移転
消極的移転=「従業員増加に伴い増床したいが、現在のビルでは拡床余地がなく、また、業務を中断して改装工事は出来ないので、移転せざるを得ない」。
戦略的移転=「多額の費用を掛けて移転をするからには、単なる増床移転ではなく、業務上“プラスα”が得られるような“移転+改装”を考えたい」。
8. 移転費用の主要項目
ⅰ. 内装工事:最大の費用項目。壁・天井・床にどれだけ手を加えるか、どれだけ間仕切るか(=部屋数)、品質レベルをどうするかで総コストに大きな差がでる。レイアウト作成の基本構想をブレさせない範囲内で、例えば、エントランスや接客スペースにはお金を掛け、一方、執務スペースは質素にするなど、メリハリをつけることが肝要。他のテナントが入居済みのビルでの内装工事は、割高な夜間・休日作業の割合が増える。
ⅱ. 家具備品什器、OA機器購入:移転を機に、設備・備品の刷新を図る。あるいは逆に、コスト抑制の為、既存の家具・備品を極力活用する場合には、業務中断につながらない入念な引越計画が必要。
ⅲ. 電気工事、空調工事:時間外業務用の追加空調設備設置が必要な場合、ビルによっては困難なところもあるので要注意。
ⅳ. 通信系工事:PBX、光回線利用、TV会議システムなどをどうするか?
ⅴ. セキュリティー工事:入退室管理、監視カメラや録画装置をどうするか?
ⅵ. 引越費用:事務所移転の場合、土日・祝日あるいは夜間の引越も多いので、割高になることもある(電話回線やシステムのセットアップとのタイミング調整に注意)。
ⅶ. 旧オフィスの原状復帰工事:旧オフィスの賃貸期間満了までに完了し、かつ家主の検査をパスする必要がある。
ⅷ. 新旧オフィスの家賃のダブリ:viiとも関連するが、業務中断を避けるため、新旧オフィスの賃貸期間をオーバーラップさせた部分のコスト。ただし、新オフィスの賃貸交渉如何によっては、特に大きなスペースを賃貸する場合、複数月のフリー・レント期間を獲得出来ることもある。
9. 戦略的“プラスα”
ⅰ. 業務効率アップ:複数の拠点の統合。分散している関係会社事務所の集約。効率的なフロア・レイアウトの採用等。
ⅱ. スタッフのモチベーション向上:米グーグル社などは、スタッフ同士のコミュニケーションが円滑になるような懇談スペースなどを積極的に配置したレイアウトを採用。従業員の創造力アップも狙っている。
ⅲ. アクセス改善:顧客のアクセスと同様、スタッフの通勤の便への配慮も重要。移転に伴い、通勤が不便になる従業員が退職する可能性もある。
ⅳ. 企業のイメージアップ:スタッフ採用にもプラス。
10. 見落としがちな重要事項
ⅰ. 契約期間:当地標準は3年契約だが、大規模投資を伴う大きなオフィスの移転の場合、5年契約も一考の価値あり。3年契約の場合でも、通常の延長オプションではなく、更新時の値上げ幅を制限するキャッピング条項付きオプションを交渉してみよう。
ⅱ. 拡張余地:当初は余裕をもって作ったレイアウトでも、更なる増員や組織変更で、再度見直しが必要になる場合も多い。例えば一部の会議室を執務スペースに転換出来るような考慮が役立つかもしれない。
文=木村登志郎(パシフィック不動産株式会社CEO)
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.261(2014年07月21日発行)」に掲載されたものです。