シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXライフTOP『黄泉がえり』梶尾真治

紀伊国屋「おすすめの1冊」

2004年9月27日

『黄泉がえり』梶尾真治

photo-8梶尾真治の作品で最も知られるようになったのが本書。SMAP草彅剛主演・柴咲コウ主題歌で映画化され、ご存知の方も多いだろう。熊本周辺で死者が蘇り、家族の元に戻るという現象が発生、蘇った本人と家族ら周囲の人々を描いた作品。

この作品以降、彼の著作は「泣けるホラー」と称される。そのたび個人的には「ちょっと待って、梶尾作品ってSFじゃないの?」と言いたくなる。本書も確かに死者が蘇るという点ではホラーかもしれないが、死者が蘇ることにはSFらしい理由付けがされており、ホラーと言い切れない。元々、梶尾真治はデビュー作からアシモフやクラークといったハードSFというより、星新一のようなショートショートやブラッドベリのようなちょっと切ないSFを主にSF作家として知られていた。特に時間や距離に翻弄される男女を書かせたらうまい。それは本書も同様だ。

出版社の『泣けるホラー』という大仰な文句を真に受けて読むと肩透かしを食うかもしれないが、アイドル出演映画の原作ということで本書を避けていた人は、楽しめるので一度読んでみて欲しい。短編集『黄泉びとしらず』も併せてオススメ。

 

新潮社(新潮文庫)

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.013(2004年09月27日発行)」に掲載されたものです。
文=シンガポール本店 古矢

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