シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXライフTOP『ヨーロッパ思索紀行』木村 尚三郎

紀伊国屋「おすすめの1冊」

2006年3月20日

『ヨーロッパ思索紀行』木村 尚三郎

photo-4私事で恐縮であるが、木村氏の著作にはこんな思い出がある。初めて読んだ同氏の著作は「近代の神話」「歴史の発見」の2冊であった。大学生になりたての頃、西洋政治史の担当教官から開講直後に参考文献として読むように指示されたからであった。この2冊の主旨は、簡略化すると以下の通りであったと思う。ヨーロッパの人々はヨーロッパの源流はその「近代」にではなく「中世」に求められると考えるようになったこと。そして、決まった「歴史」なるものは存在しないし、「現代」を生きる我々の問題意識によって「歴史」は変わる、ということ。言うまでもなく、明治以降の日本がお手本として来たのはアメリカを含め近代ヨーロッパの文物である。「ヨーロッパ」をヨーロッパたらしめているもの、それはヨーロッパの「近代」であり、ヨーロッパの「中世」といえば「暗黒の時代」であるという印象を私は持っていた。歴史とは残された資料を基に過去の事実を正確に再現しようとする試みであると思い込んでいた私にとって、過去と対話し将来の生き方を考える学問のあり方が大変新鮮であり、また驚きでもあった。本書は著者が1995年から2003年にかけて、NHKのテレビ番組制作に伴うヨーロッパ訪問を綴った紀行書である。過去と対話しつつ現在及び将来のあり方を考えるという流れが全体を支えている。特に第3部で扱われているスペインから南イタリアにかけての昨今の地中海沿岸都市の活性化とその背景にあるものの記述が興味深い。第2部は見出し毎に拾い読みをしても面白さは半減しないであろう。

 

日本放送出版協会

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.070(2006年03月20日発行)」に掲載されたものです。
文=秋山

おすすめ・関連記事

シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXライフTOP『ヨーロッパ思索紀行』木村 尚三郎