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紀伊国屋「おすすめの1冊」

2006年5月15日

『白洲次郎 占領を背負った男』北康利

photo先般、NHKテレビ番組「その時歴史が動いた」で白洲次郎が取り上げられていた。この番組を見るまでは氏のことを知る機会は殆んど無かった。番組に本書の著者が出演していたこともあり、早速読んでみる。

読後の印象は、「占領下の日本で吉田茂の下、これだけ重要な役割を果たしてきたにもかかわらず、ほとんど脚光を浴びて来なかったのが不思議な位だ」、である。

日本国憲法制定過程での連合国軍GHQ、とりわけ民生局との激しい遣り取り。

戦後日本が進むべき道をいち早く見定め、通商国家日本の中核を担うことになる通商産業省の創設に力を注ぐ時期。

サンフランシスコ講和条約調印式の臨む演説原稿を英語から日本語の原稿に差し替えさせる様子。占領下日本の絶対権力者マッカーサー将軍に対してさえ、筋が通らなければ怒鳴りつけ、日本の誇りを守り抜こうと闘い続けた姿勢を窺がい知ることができる。

どの場面でも裏方に徹して表舞台には現れず、役割を終えるとさっと身を引く潔さが読んでいて快い。そして先例に囚われることなく、自らの信条とアイデアで局面を切り開いてゆく姿勢と実行力は「占領を背負った」という言葉がピッタリだ。

児童向けの伝記シリーズに加えて欲しい人物像である、と思う反面、氏のような人物は伝記上の人物の殆んどがそうであるように、模範とすることは可能でも模倣は不可能なのだろう。敗戦直後の困難な時代にこのような先達が存在したことは幸せだ

 

講談社

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.074(2006年05月15日発行)」に掲載されたものです。
文=秋山

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