シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXライフTOP『ポトスライムの舟』津村記久子

紀伊国屋「おすすめの1冊」

2009年3月16日

『ポトスライムの舟』津村記久子

photo-12第140回芥川賞受賞作。選評で山田詠美が、「『蟹工船』よりこっち」と評していた。ちなみにポトスライムとは、観葉植物の一種である。

主人公のナガセは、30歳を目前に控えた女性。独身で彼氏もいない。母親と二人暮しで、工場の契約社員としてラインで働いている。年収は160万円程と言うから、収入は多くない。いわゆるワーキングプアという言い方ができるかもしれない。とは言え、そこまで切羽詰った描写は無く、悲惨という訳でもない。家が築50年で雨漏りするそうだが、その程度である。

ナガセの周りには、先行き不安定な女性が登場人物として次々と現れる。けれども、不安定だが不幸と言うわけではない。無理をしているわけでなく、淡々と生きている。その中でナガセ自身は、特に何をする訳ではないのだが、日常の中で生き甲斐を見つけるコツを掴んでいく。

個人的には、この主人公と同世代のため、共感を持って読むことができた。地味な設定とは思うが、読後感が良い。この本を読むことによって、救われる気持ちになる人はいるだろうと思う、そんな内容であった。

 

講談社

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.141(2009年03月16日発行)」に掲載されたものです。
文=シンガポール紀伊國屋書店 氏家

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