2009年6月1日
『シナン』夢枕獏
誰にでも忘れられない町があるのではないだろうか。私にとってイスタンブールがそれになると思う。
今も目に浮かぶのは、ガラタ橋の上で見た夕陽、バザールの熱気、陽気で親切な人々、そして、巨大で美しい建造物、モスク。アヤソフィア、スルタン・アフメット・ジャーミー(ブルー・モスク)、スレイマニエ・ジャーミー等、旧市街を歩いていると必ずモスクにぶつかる。
このうち、アヤソフィアは元々キリスト教の教会であり、ローマ帝国の皇帝、ユスティニアヌスが537年に建立したものらしい。そこから千年の時を数えないと、イスラム世界ではこれを超える聖堂を建設することはできなかった。
時はスレイマン大帝の治世、オスマントルコの最盛期。天才建築家ミマール・コジャ・シナンの手によって、漸くアヤソフィアを超える聖堂を完成させることができた。この天才建築家を題材にしたフィクションが本書。
以前イスタンブールを訪れたときは予備知識が殆どなかったが、もう一度訪ねてみたいと思う。今度は、シナンの足跡を訪ねることになるだろう。
中央公論新社
協力=シンガポール紀伊國屋書店
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.146(2009年06月01日発行)」に掲載されたものです。
文=シンガポール紀伊國屋書店 茂見