シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXライフTOP『終の住処』磯崎憲一郎

紀伊国屋「おすすめの1冊」

2009年9月21日

『終の住処』磯崎憲一郎

photo第141回芥川賞受賞作。著者の磯崎憲一郎氏は現役のサラリーマンで、大手商社の人事総務部長という肩書であることも、受賞の際に注目を浴びた。夫婦間の関係をテーマとした小説である。

この小説が独特なのは、短編にもかかわらず、時間の流れが早いことである。主人公の男性の30代から50代の人生が描かれているのだが、結婚、妻の出産、新居の購入、育児といった、人生の節目と言えるイベントが駆け足で盛り込まれている。にもかかわらず、散漫な感じがせず、それぞれ含蓄を感じる内容であるのは、さすがと感じた。

11年間、お互い口を利かない夫婦。関係はぎくしゃくしているのだが、どんなに性格や価値観が違っても、長く生活を共にするという事実は重い。この事を、小説から読み取ることができた。

一つの段落が長く独特の文体と感じるが、リズム良く一気読みできる一冊である。

 

新潮社

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.153(2009年09月21日発行)」に掲載されたものです。
文=シンガポール紀伊國屋書店 氏家

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