シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXライフTOP『虐殺器官』伊藤計劃

紀伊国屋「おすすめの1冊」

2010年8月16日

『虐殺器官』伊藤計劃

photo「みんな死んでいる。みなが死んでいた。」そんな死者達の世界から、物語は始まる。

世界の後進諸国では内戦や大規模な虐殺が急激に増加していた。その混乱の陰には常に謎の男、ジョン・ポールの存在が……。米軍のクラヴィス・シェパード大尉はその謎の男を追ってチェコへ向かう。ジョン・ポールの目的は一体何なのか――。

お気付きの通り、タイトルからしてこの本は暗い。気になってはいたものの手に取るのを暫く躊躇ってしまった程、衝撃的なタイトルではある。しかし、ゼロ年代最高のSFに選ばれた本書の描く近未来の世界、ストーリー、またその抑制の効いた文章は実に素晴らしく、久しぶりに小説、読書の面白さを感じた一冊だった。

心残りなのは、昨年著者が34歳という若さで亡くなってしまったために、著者の新しい物語をもう読めないということだろう。

 

早川書房/ISBN:9784150309848

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.173(2010年08月16日発行)」に掲載されたものです。
文=シンガポール紀伊國屋書店 里見

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