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美容・健康

2009年3月16日

「医食同源」の知恵を学ぶ

毎日の食べ物でできる健康なからだづくり

スクリーンショット 2015-07-10 18.03.37シンガポール国家登録 中医師&針灸師
島田久仁子さん

 

日本食シェフ&フードマガジン『O+』編集長
シンマ・ダショウさん

 

シンガポールで食べ物の話をしていて、“heaty”あるいは“cooling”といった言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。

“heaty”というのは中華系が多いアジアでよく使われる言葉で、陰陽の陽の性質を持つ、つまり体を温めるもの。“cooling”はその逆で陰の性質を持ち、体を冷やすもの。

気温の高い屋外でたくさん汗をかいた時、「体の熱を冷ますもの」としてさとうきびジュースを飲む、マンゴーは「体に熱を与えるもの」なので食べ過ぎない方が良い、というように、体の状態に合わせて食べ物を選ぶことが中国では昔から行われてきました。

「医食同源」というのは実は日本で1970年代前半に作られた造語で、元は中国語の「薬食同源」、普段の食事が体を養うという考え方のこと。中国で長い歴史を経て育まれた「医食同源」の知恵を探るべく、中医学の専門家である島田久仁子さんと、食の専門家であるシンマ・ダショウさんに対談していただきました。

 


 

 

陰陽のコンセプト

島田 シンマさんは、料理をする時に陰陽のことをどのぐらい意識していますか?

シンマ 献立を考える時には、陰陽のことは実はあまり意識していません(笑)。手元にある食材で何を作ろうかな、とまず考えます。

ただ、体調があまり良くない、風邪気味だ、という場合にはいつもと違うものを食べたり、お茶を飲んだりしますね。食べ物の話をしていて、この果物は“heaty”だ、この野菜は“cooling”だ、といったことはよく言います。
実を言うと、今の仕事に携わるようになるまでは、食べ物と健康が関係していることもあまり意識していませんでした。

 

島田 自分の体調を考えながら、食べる物を選ぶことは重要ですね。ただ、健康に良いとされる食べ物だけ食べて、例えば「油ものは絶対食べない」という方がいますが、それも考えものです。体のためには油もある程度は摂取する必要があります。ビタミンの吸収を助けたり、細胞に潤いを与える効果もありますから。

シンマ 病気になってしまうまで、自分が食べる物に無頓着な人も多いですね。食事で自分の体をいたわるという考え方がもっと必要だと感じます。

 

島田 シンガポールでも、日本と同じように高血圧、高脂血症(脂質異常症)、糖尿病などの生活習慣病が増えていますね。高血圧と高脂血症と両方を抱えている方もとても多いです。糖尿病が悪化すると厄介ですね。出血しやすくなるので、重症だと針やマッサージなどの治療ができない場合もあるんです。

 

シンマ 最近、特に若い世代は、食事も西洋化してきていますからね。ハンバーガーやフライドチキンなどファストフードがみんな大好き(笑)。そして、体調が悪くなれば、まず西洋医のいる病院へ行くのが一般的です。中医師のところへ最初から行く人は少ない。一方で、西洋医学の薬では治らない病気に中薬が効果的な場合があります。中医や中薬の良さがシンガポールでも再認識されつつあるのではないでしょうか。

 

島田 そこは日本と似ている部分ですね。日本でも明治以降西洋医学が主流でしたが、近年は中医、日本では漢方と呼ばれますが、その良さが見直されつつあります。

 

五行思想から考える、体のメンテナンス

島田 中医の話が出たところで、中医学で重要な五行(木、火、土、金、水)に沿って考えると、例えば胃の具合が良くない場合、胃が属する土のグループをまず見てみます(図参照)。同じグループには脾臓が属していて、胃とは陰陽の関係なんですね。なので、まず胃と脾臓のバランスを整えてあげるために、同じ土のグループに属する「甘い」ものを摂取することを考えます。ここで「甘い」というのは砂糖などの甘さではなくて、野菜や果物など食べ物が本来持っている甘味のことです。
また、土を生む火のグループも見る必要があります。火のグループに属する小腸が弱っていると、胃や脾臓にも影響を及ぼします。胃の具合が良くない場合、実は小腸が弱っているということもあるんです。さらに、土に克つ木のグループを見ると、ここには肝臓、胆が属しています。肝臓が強すぎて、胃や脾臓のエネルギーを奪っている場合もあるんですね。
シンガポールは暑いので、火のグループに属する心臓は特に影響を受けやすい臓器です。ここでは心臓病の方も多いですよね。苦瓜はシンガポールでも“bitter gourd”としてポピュラーな食材ですが、この苦味が心臓を助ける働きをします。

シンマ なるほど。シンガポールで苦瓜の炒め物を食べるのは理にかなっているんですね。

 

 

島田 シンマさんの専門でもある寿司で考えてみましょうか。寿司飯には酢と塩と砂糖を使いますよね。酢の酸味が木のグループに属する肝臓、塩は水のグループに属する腎臓に良いんです。腎臓に結石がある場合、わかめや昆布、のりなどの海草類が良いんですよ。塩分を含んでいるでしょう?しかも海藻類は体内の結石や腫瘍を小さくしてくれるんです。中医の場合、がん患者には海草由来の中薬を処方するんですよ。だからと言って、海藻類だけを食べ続けるのはもちろん間違っていますけどね(笑)。日頃から他の食べものと一緒に、バランス良く食事に取り入れることが大事です。
三杯酢は肝臓に良いんですよ。酢の酸味が肝臓が属する木のグループに良いのと、しょうゆの塩辛さが木のグループを生み出す水のグループに良い、それから砂糖の甘みが木のグループに吸収される関係にある土のグループに良いので、バランスが取れているんです。もちろん、肝臓に酸味が良いからと酢の物ばかり採り過ぎるのも良くありません。植物に水をあげすぎると根ぐされしてしまいますよね。それと同じです。ここでもバランスが大事なんですね。
寿司の話に戻すと、寿司には生魚が使われますよね。そこでしそを一緒に食べるとデトックスになって良いんです。中医学ではしそも中薬のひとつ。お刺身にもつまとして大根やしそが添えられますよね。わさびも解毒効果があります。伝統的な食事は、日本食でも中華でもバランスの取れたものが多いですね。

 

シンマ 寿司の話をしていたので、本当に寿司が食べたくなってしまいました(笑)。それで思い出したのですが、体に必要な食べ物は、体が欲して教えてくれるものだという感じがしますね。

 

島田 その通りです。例えば体がすごく疲れているときや具合が悪い時にものを食べても「味がしない」と思う時がありますね。そういう時はむしろ無理して食べない方が良いんです。胃が疲れている証拠ですから。水分を補給して、休養することの方が大事。飽食の時代と言われるように、現代は食べ過ぎることの方が多くて、本当に体が欲しているのは何か、わかり難いものです。
私が生徒さんや患者さんに良く言うのが、朝起きてお腹が空いた感じがしない時は、必ずしも食べなくて良いということ。生姜茶を飲む程度にして、お昼ごはんからきちんと食べれば良いんです。本来は朝起きて排泄することで胃腸を空にするんですが、便秘がちだったりで定期的に排泄できてない人も多い。排泄物が溜まるのは体の中に毒素が滞留することになるのでもちろん良くないですよね。まずは胃腸を空にすること。胃が空になって、空腹感を感じてから食べても構わないんです。

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デトックスに良い食べ物よりバランス食

AsiaX デトックスに良いとされる食材もいろいろありますよね。

島田 味噌やしょうゆ、ヨーグルトなど醗酵物は体内の毒素を吸収してくれるのでデトックスに良いといわれています。でも、体のどの部分で効果があるのか、良く分かっていない方も多いのではないでしょうか。血液中の有害な物質はまず肝臓で取り除かれます。味噌やしょうゆが良いのは肝臓に対してですね。また、血液中の有害な物質を排出するのに有効なのがたまねぎやキャベツ。それから、胃で消化された食べ物は十二指腸を経て小腸に送り込まれますが、有害な物質を吸収して、小腸から吸収されるのを妨げてくれるのが繊維質。ごぼうやりんご、れんこんなどが良いですね。食べ物に含まれている成分によって、体のどこで有効に働くかは異なるので、「デトックスに良い」というだけで特定の物ばかりを食べるのも良くないんです。いろんなものをバランス良く食べることで初めて体全体をケアすることができます。もちろん、家庭で多くの異なる素材を一度の食事に取り入れるのは難しいので、五味や五色がなるべく揃うように心がけるだけでも良いですね。
また、人によって栄養を吸収できる力も違うので、Aさんは摂取した栄養の80%を吸収できるかもしれませんが、Bさんは体が疲れていて60%しか吸収できない、という場合、2人が同じものを同じ量だけ食べてもその効果には差があります。また、良いとされる食材でも、その人の体の状態次第ではBさんには良いけど、Aさんには合わない、ということもあります。自分の体に必要なものは何か、それを知ることが大事です。
何がその人の体に必要なのか、知るのに一番良いのは断食すること。ムスリムの人たちはラマダンの期間中昼間は一切食べ物を口にしませんよね。これは体の中の有害物質を排出してきれいにするためにも良いんです。

 

シンマ なるほど。興味深いですね。

 

島田 食べ物の組み合わせでもデトックスはできますね。例えばお肉を食べる時はじゃがいもやトマト、キャベツ、たまねぎなどを一緒に食べるとか。もちろん、お昼にお肉だけ食べて、夜は野菜だけ食べる、というのではデトックスになりませんよ(笑)。同時に体に入って一緒に消化されなければデトックスの効果は期待できません。
食べ方ももちろん関係します。食事の時間や、調理方法、それから良く噛んで食べることもすごく大事です。しっかり咀嚼しないと、消化が不十分になって食べた分だけの栄養を吸収できなくなります。

 

旬の食べ物と陰陽

シンマ 島田さんにお聞きしたいのですが、日本食では秋には秋の食べ物というように旬の物を食べますよね。それは体にも良いということなのでしょうか。常夏のシンガポールではどうでしょう?

 

島田 季節の食べ物は体にも良いです。シンガポールは常に暑くて、日本のような四季がないので、その考え方がちょっと難しい面もありますね。
日本から来た方で、よくシンガポールの食べ物は合わないからと日本食ばかり食べているというのを聞きますが、これもあまり良いとは言えません。地の物を食べるのが健康を守るためにも本当は良いんです。
陰陽の考え方でバランスを取ると良いですね。夏が旬のものは一般的に水分が多くて体を冷やす、つまり陰のものが多い。きゅうりやなすがそうですね。冬が旬のものは、かぼちゃのように固くて水分も少ない。体を温める、つまり陽のものが多いんです。これもひとつの考え方ですね。また、産地も陰陽を見分ける目安になります。寒冷地で採れるものは陽、温暖な土地で採れるものは陰のものが多いですね。
また、シンガポールという暑い土地に住んでいるからといって、そうめんやざるそばなど冷たい食べ物ばかり食べるのも良くないですね。屋外にいる時間が長い人ならまだ良いのですが、冷房が強いオフィスで毎日長時間働いている人だと、逆に体を温める食べ物が必要なこともあります。
生姜茶を飲むなど、生姜を取ることは体を温めるのでおすすめですね。

 

シンマ にんにくはどうでしょう?体が温まりますよね。

島田 そうですね。ただ、刺激も強いので心臓が弱い方などは注意が必要です。そういう方は生姜の方が良いですね。

 

 

普段の食事からの健康づくり

AsiaX 最後に読者の方へメッセージをお願いします。 

シンマ まず、食事と健康の関係性を意識することが大事ですね。あらゆることが繋がっていますから。また、毎日夜遅くまで長時間働いている、ストレスが多い、あるいは暑い土地に住んでいるなど、生活スタイルや環境に合わせて、料理を選んだりあるいは食材を選ぶことで、健康な体づくりを心がけてもらえたらと思います。

 

島田 同じです(笑)。それだけではあんまりなので、食べることを楽しんでください、ということを伝えたいですね。消化・吸収も良くなりますし。また、例えばお皿を自分で選んで、このお皿にはどんな料理が合うかな、と考えてみるとか、楽しみ方もいろいろあります。もうひとつ、繰り返しになりますが、食べる物を選ぶ時は自分の体調に合わせてください。暑いと感じているか、寒いと感じているかで食べるべきものは違います。最後に、食物への感謝の気持ちを忘れないでください。お肉や魚だけでなく、野菜や果物も生命を持っているもの。その生命からエネルギーをもらっているおかげで生きているんだ、という気持ちがあれば、野菜の皮なども無駄にはできないと思います。

 

 


 

 

おすすめレシピ

スクリーンショット 2015-07-10 18.04.03今回ご対談いただいた島田さんとシンマさんに、五味・五色の入ったバランスの良い食事の例を考えていただきました。

 

雑穀米

玄米と麦、ひえ、あわ、きび、そばなどを混ぜて炊いたもの。

※玄米には必ず黒ごまを。鉄、リン、カルシウムなどのミネラルのバランスが整う。

みそ汁

とうふ、わかめ、ねぎを入れて、昆布だしで。

 

 

白身魚の照り焼き風大根おろし添え

白身魚はスーパーで切り身で売られているBatang Fishなどで。

両面に塩をふり、表面を軽く焼いた後、しょうゆ、酒、さんしょうを合わせたたれをからめてフライパンやグリルなどでさっと焼くことを3~4回繰り返す。たれに漬けてから焼くと身が固くなってしまうので、さっとからめるだけにするのがコツ。身がふっくらとしておいしくなる。

 

きゅうりの浅漬け

きゅうりを約1cm角大にざく切りにし、魚醤、にんにくのみじん切り少々、酢と和える。

きくらげのみじん切りを入れても。15~20分置いて味をなじませたら食卓へ。

 

 

野菜の炊き合わせ

たけのこ…塩少々とごま油で炒める

こんにゃく…昆布だしと醤油、砂糖少々で炊く

にんじん…塩ゆで、もしくは昆布だしで炊く

さやえんどう…塩ゆで

上記をそれぞれ時間があるときに薄味で作り置きしておくと便利。

 

 

 

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.141(2009年03月16日発行)」に掲載されたものです。
文= 沢木 直

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