シンガポールのビジネス情報サイト AsiaX熱帯綺羅TOPシンガポール 都市計画の読み方

熱帯綺羅

2018年5月24日

シンガポール 都市計画の読み方

奇抜なデザインのビルが建ち並ぶシンガポール。晴天のもと街中を散歩していて、「この建物はどのような意図で造られたのだろうか?」と、疑問に思うことはありませんか?

 

今回は、シンガポール在住の建築家・藤堂 高直氏に、シンガポールのマスタープラン(都市計画)を踏まえながら、建築物それぞれに込められた意図、知られざる秘密を明かしていただきました。

 

まず、シンガポールの特徴として挙げられるのが大きな地震がほとんどないことです。このため、構造設計の際には免震、耐震について考慮する必要がありません。アクロバティックな設計も可能で、窓ガラスも耐震用にメッシュ入りのものを用いる必要もありません。景観を考えたデザインの設計が可能なのです。

 

CBDの風景には多くの日本人建築家が貢献している。(写真提供: 藤堂 高直氏)

 

緑を増やし「洗練されたデザインを都市」に

シンガポール政府が、1960年代にマレーシアからの独立後、さら地の状態から植物を植え、計画的に「City in the garden」を造り上げてきた歴史的な背景もあります。現在、シンガポールに植生する植物は約1,000種と言われており、そのうちの約40パーセントが原生の植物で、残りの約60%は南米やヨーロッパ、日本から輸入したものです。

 

そして、ビルの屋上や壁面などの空間にもグリーンが多いことに気付きますが、シンガポールには、環境対応建築の評価システムがあり、緑化面積を一定以上満たすと税金が免除されるので積極的に緑化が進むのです。

 

また、洗練された景観に含まれる要素として、照明デザインも重要で、ヨーロッパで都市計画を学んだ経験のあるリー・クアンユー氏の「アジアの国でも欧米並みの洗練されたデザインを都市に取り入れたい」という思いが反映されています。シンガポールの中心地では、ビルの上階の照明は白の照明を基調とし、地上に近い階には暖かい色を使うようにという指針もあります。社名は、ビルの上部(クラウン)に入れることになっており、シンガポールの夜景は美しく、落ち着いてモダンに映ります。

 

シンガポールでは建物を設計するときには、行政側の都市再開発庁(URA)と建築家、そして投資家が組むことが一般的です。建築家は、建築の構想を行政の担当者に伝え、デザインや予算をまとめた結果を投資家に伝えることで、デザインのコントロールも可能になるのです。

 

風水が都市計画に溶け込むシンガポール

香港や上海のように「風水都市」と国として表立って言わないシンガポールですが、実際のビル建設時には、設計メンバーに風水師が採用されることも多いようです。

 

(左より)リパブリックプラザ、OUBセンター、UOBプラザ。全て最強吉数の280メートルで統一。(写真提供: 藤堂 高直氏)
広東地方の風水を用いて構成されたサンテック。巨大な噴水も風水的に大吉。水は富を、周りの輪はその富を引き留める意味がある。(写真提供: 藤堂 高直氏)

 

風水の建築への取り入れ方は、数字を用いた風水(中華的なラッキーナンバーを用いた建物)、漢字をモチーフにした風水、よい気(水)を溜め、水が吹き飛ばないように周りを囲む本質的な風水―の3種類です。数字では、建物の長さに「28」を絡めたり、また吉数の階は間取りを特別な設計にすると高額な値段で売れることもあるそうです。漢字では建物のデザインにモチーフとして使われたり(上空から見ると「八」の形で建っているThe Gatewayなど)します。本質的な風水に関しては様々ありますが、中国の神話に出てくる「八角形のものはありとあらゆる物を生み出す」という考えから、八角形がシンガポールの様々な建築に用いられています。UOBプラザや、リパブリックビルは八角形。また、もっとわかりやすく八角形を街の中に馴染ませようとしたこともあったそうですが、多民族国家であるという理由から中華系の文化である風水を前面に出すことを取りやめ、その代わりに別の場所に八角形を配しました。1ドル硬貨が、まさに八角形のデザインです。

 

コンラッドホテルに見る13という文字デザイン。中国の一部地域では「十三」と「実生」(実るという意)の発音が似ているため吉数。
風水を意識した建物が多いCBD界隈にあるミレニアウォークの奥行きは280メートル。

 

日本人建築家の活躍にも注目

シンガポールは独立当時、都市設計を始める際にオランダ、アメリカ、そして日本から建築家を呼び、彼らに今後どう発展する都市をつくっていくか相談しました。その後も、多くの日本人建築家がシンガポールの都市づくりに貢献しており、ラッフルズ・プレイスのUOBプラザが新宿副都心に似ているのは、丹下健三氏がそのビル群の両方に関わったからとも言われています。また、ランドマークのひとつ、シンガポールフライヤーが黒川紀章氏によって設計されたことは有名です。2008年に完成し、28ポットで28人乗り、1回転する時間は28分と徹底しています。

 

藤堂氏が基本設計を担当したGENTING HOTELは、行政からの要請により、気を通し景観を良くするため2練をずらす設計に。(写真提供: 藤堂 高直氏)

 

「シンガポールの街は美しい」という海外からの評価を受けるに至ったシンガポールの都市づくりには、様々な政府の意思の力や信念が都市計画に込められています。国の発展も当然の結果なのかもしれません。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.334(2018年6月1日発行)」に掲載されたものです。取材・写真: 神尾 由紀

おすすめ・関連記事

シンガポールのビジネス情報サイト AsiaX熱帯綺羅TOPシンガポール 都市計画の読み方