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熱帯綺羅

2017年7月26日

作家の感情に触れ、自分ごととして捉える。アートから歴史を学ぶ「ナショナル・ギャラリー・シンガポール」

草間彌生展に沸くナショナル・ギャラリー・シンガポール。その常設展スペースには、ピカソなどメジャーな作家の作品があるわけではありません。すべてローカル作家作で、絵の題材や背景に列強国の影が見え隠れするなど、東南アジア諸国の歴史を知るためのエッセンスに富んでいます。1940年代、英国統治下にあったシンガポールの様子は?米国統治下にあったフィリピンは?画家の目線を通して語られる、各国の当時の姿。歴史をアートから紐解く面白さを体感し、さらにギャラリーの建物を巡る歴史についても学ぶべく、シティ・ホール地区へ。

 

その時、いったい何が起きたのか
歴史本には書かれていない、人びとの感情

敷地面積6万4,000平方メートルを誇る建物内に並ぶのは、美術館が所蔵する19世紀以降に制作された約8,000点の作品から選ばれた作品群。これらは大きく東南アジア諸国とシンガポールの作品とで分けて展示されています。一説によると全館を網羅するには3日はかかるとのことなので、象徴的な作品をピックアップして見てみましょう。

 

まずは東南アジア・ギャラリーに展示される、インドネシアを代表する画家ラデン・サレの〈Forest Fire〉。1820年代から絵画を学びに欧州を周遊したサレ。この作品は遊学を終える直前に描かれた母国の景色で、当時の宗主国オランダの国王に贈られたもの。火が放たれた森、崖淵へと追われた動物の姿に、観賞者は、植民地統治のなか、西洋に学んだ絵画技術で自分らしい表現を模索する彼の葛藤を想像します。

 

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高さ3mの大作、ラデン・サレ〈Forest Fire〉(1849)

 

続いて、フラ・ソララクリキットによるタイ国王、ラーマ3世の肖像画。ラーマ3世が没した1851年当時、タイ王族は公に姿を見せてはなりませんでした。そのため彼の治世を記念し、欧州の肖像画の伝統に倣って肖像画を描かせることになったのは、没後60年が経ってから。ラーマ3世の姿を知る人の記憶を基に完成させざるをえず、果たして彼が本当にそのようなビジュアルだったか定かではない点にも面白さがあります。肖像画文化がもたらされたことも、タイ文化史における変化です。

 

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フラ・ソララクリキット〈ラーマ3世の肖像〉(1916)。「ラーマ3世はこんなビジュアルだった」という伝承をもとに描かれた
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シンガポール芸術の先駆者の一人として親しまれている、ジョージェット・チェン(張荔英)の自画像と、彼女の夫の肖像画

 

シンガポール・ギャラリーで注目すべきは、チュア・ミア・ティ(蔡明智)による〈NATIONAL LANGUAGE CLASS〉(1959)。イギリス統治を終えたシンガポールは、自国のアイデンティティを模索し、その第一歩として、マレー語を公用語に制定しました。テーブルを囲み、マレー語で学んでいるのは、中華系の人びと。黒板に書かれた「名前は?」「どこに住んでいる?」というセンテンス。こと多様な人種が暮らすシンガポールにおいて、「国」を形作っていく難しさを考えさせられます。このようにアートには各時代の社会の複雑な現実と、そのなかで生きた作者の思いが込められています。その感情的な部分に触れることで歴史を自分ごととして捉えやすく、解釈しやすくなる。これこそアートから歴史を学ぶ魅力です。

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