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熱帯綺羅

2010年9月6日

インディペンダント・ビジュアル誌『WERK』の手触り

雑誌の概念を突き抜けた『WERK』マガジン

シンガポールのハジ・レーンにまだコム・デ・ギャルソン・ゲリラストア+65(CdGGS)があった5年ほど前、『WERK(ヴェルク)』を初めて手にした時の衝撃をまだ覚えています。ピンクや黄色の強い蛍光色のペイントで彩られ、電話帳サイズの本のエッジは切りっぱなしで不揃い。本を閉じたままペイントが施されたせいか、ページを捲るたびにパリパリと音がします。表紙と中身は、ざらっと手触りのいいオーガニックな紙が使用され、中身は、活字の少ないモノクロ写真中心の構成、これまで手にした事のない本でした。読み手の五感を刺激する緻密に計算された作り手のアイディアが、装丁から中身の隅々までぎっしりと詰まっています。

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『WERK No.18』日本の現代美術界の巨匠、田名網敬一のスケッチを特集した。

 

他に例をみないアバンギャルドなデザインはさることながら、更に驚いたのは、CdGGS+65店主でアートディレクターでもあったテセウス・チャンその人が、自費出版で作った「雑誌」だったということ。テセウスは、後に2006年の第1回シンガポール大統領デザイン賞を受賞し、シンガポールを代表するクリエイターとして、現在に至るまでシンガポール内外で活躍。WORKデザインオフィスを率い、コム・デ・ギャルソン、アディダス、コレットなどのクライアントワークを手がけるかたわら、2000年より『WERK』を年に2回発行しています。

「誰にしばられることなく、自分が作りたいものを毎号自由に作る。一緒にコラボレーションをしたいクリエイターにコンテンツを提供してもらい、自分はアートディレクターとして『WERK』をデザインしています。WERKはドイツ語でWORK(働く)を意味します。綴りに含まれる“WE”はコラボレーションへの意志を表明しています」と語るテセウスは、これまで18冊のWERKを世に送り出し、コム・デ・ギャルソンをはじめ、イラストレーターで映像作家のジョー・マギー、藤本やすし率いるデザイナー集団CAP、ファッションブランドのイーリーキシモトなどとのコラボレーションを果たしました。

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これまでの『WERK』の数々。それぞれ斬新なデザインで雑誌マニアの垂涎の的となっている。

 

雑誌としてサイズは同じでも、装丁やデザインは毎回全く異なります。表紙を破いたり、布をページの様に仕立てたり、または穴をあけたり。必ず一冊一冊手作業で完成させるプロセスを経ているため、一冊として同じものはありません。創刊から肩を並べてきたシンガポールの印刷業者との協働作業で作り上げ、毎回1000冊の限定発行です。これが今や、世界中の雑誌ファンを唸らせ、発行を心待ちにさせるまでの存在となっています。日本にもそのファンは多いものの、シンガポールで作られている事を知る人は案外少ないかもしれません。

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アートディレクターのテセウス・チャン。日本で『WERK』の個展なども予定されている。

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