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熱帯綺羅

2013年6月3日

ピューターの鈍色の輝きを生み出すマイスターたち

 

シンガポールで最後のマイスターたち

スクリーンショット 2015-07-02 12.37.21ベドックの工業団地内にあるフェニックス・ピューターの工場の入り口には看板がありません。かつてライバル企業が数多く存在していた頃、同社の技術を盗み見ようと同業者が工場を探して来ることがあったため、目立たないように敢えて出さなかったからだそうです。

 

 

現在、大量生産品はタイの工場で生産。シンガポールの工場では、企業や政府機関が特別な機会に作る記念品や、各種スポーツ大会の賞品などのオーダーメイドに対応、金型からひとつひとつ職人が手作りで製作します。同社のピューターは、スズ97%、アンチモン3%の合金。スズにアンチモンを入れる手法は18世紀のイギリスで開発され、ブリタニアメタルとも呼ばれます。

 

 

スクリーンショット 2015-07-02 12.37.18溶かしたピューターを金型に流し込む工程では、まず鉄の金型や柄杓を炉の中で1〜2分間熱します。この道25年以上という職人が炉から取り出した金型を台の上に組み上げると、柄杓ですくったピューターを少しずつ流し込み、ゆっくりと水の中に沈めて冷します。冷却完了後、小ぶりなハンマーを使って金型を外すと、中からは美しい銀色に近い輝きを見せるピューターが。この後、研磨や溶接などの工程を経て完成します。

 

 

この工場にある機械のほとんどは自社開発。例えば、飾り皿の縁の研磨で使用する機械は、皿を固定して高速で回転させますが、皿を何かで掴む構造にすると傷ついてしまいます。そこで、同社では機械の内部から強力な力で皿を吸引して機械に固定しています。この機械を設計・製作したのは実はスティーブンさん。5名いる職人はみな熟年世代で、うち3名はスティーブンさんの兄達。「金型作りから製品の仕上げまで一連の工程をすべて自分達でできる技術力があったから、今も生き残っているんだと思います」。

 

 

今のところ同社の後継者は未定。「細かい手作業で楽な仕事ではないので、自分や兄の子供達もやりたがらないんです。工場からも職人がどんどん減って、今じゃ機械の数の方が多いぐらい」。それでも自分達の手で生み出すメイド・イン・シンガポールのピューター製品を少しでも長く作り続けられるようにと、新たな市場開拓にも奮闘中。シンガポールで最後のピューター・マイスターたちの挑戦はまだまだ続きます。

 

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この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.235(2013年06月03日発行)」に掲載されたものです。
文= 石橋雪江
写真=Eugene Chan

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