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2010年1月18日

雇用とモラリティー(1)

パシフィック不動産(シンガポール)株式会社 マネージングダイレクター 木村登志郎 業種:不動産仲介業

資本主義に求められるモラリティー

反ブッシュ映画で有名になった米国マイケル・ムーア監督は、

“共産主義世界は崩壊したけど
資本主義者には失望させられるだけ
金こそがその理由だ
まったくルイルイ歌うしかないぜ
なぜアメリカには公的医療保険がないんだ?
ブッシュの親父やゴルヴァチョフの後
ベルリンの壁は倒れたけど、何かが失われた
テレビのニュースを見ると映画みたいだ
俺はルイルイ歌うしかないぜ”

と、新作『Capitalism:A Love Story』(邦題『キャピタリズム〜マネーは踊る〜』)の冒頭で、パンク・ロック歌手イギー・ポップの『Louie Louie』を用いて主張している。

 

日本でも、小泉改革の言わば「市場原理主義」に社会の格差を拡大した「負」の側面があった事が、自民党を政権の座から引きずり降ろすことに繋がった大きな原因のひとつとみられている。

 

ベルリンの壁を崩壊させ、中国をも大きく変革させつつある市場経済そして資本主義ではあるが、16世紀に生まれた資本主義が、もはやそのまま通用する時代ではない。今や21世紀である。

 

時代は新しい社会経済秩序を求めており、そこにはモラリティーがなければいけない、という声が急速に高まっている。「金を儲けてどこが悪い」と傲慢に叫ぶ時代は、過去のものとなりつつある。弱者を含めた社会への配慮、環境への配慮も重要となってきている。

雇用とモラリティー

世界に自由と民主主義を広める原動力にもなってきた資本主義の根本原理の一つは、雇用の自由である。

 

つまり、雇う自由と雇われる自由(職業の自由)である。

 

この点についても、「派遣切り」を始めとして、現状のままで良いだろうか、と言う声が急速に高まりつつある。

 

これは、雇われる側からだけではなく、雇う側の一部からも、社会的な公正・安定を阻害することになり、更には、消費者心理を冷やし、消費低迷に繋がる、との懸念の声も出てきている。その点において、「雇用についても、モラリティーが求められている」のではないだろうか?

 

こんな事を書いていると、私は民主党員あるいは鳩山友愛主義者かと思われるかもしれないが、実は歴とした小泉シンパである。

職業選択の自由=転職の自由

個人的な話をするのをお許し頂きたいのだが、私は1976年に社会人となり、1985年に初めての転職をした。当時は「終身雇用当たり前時代」で、親類一同、同僚ならびに友人一同から、「お前は気が狂ったのか?頭を冷やして良く考えろ」との真摯で厳しい助言・批判を受けた。まさに四面楚歌で、「お前は本気で“脱藩”するのか?」に近い状況であった。

 

ちなみに藤巻兄弟の兄(日本の金融機関から外資系金融機関に転職)も、私とほぼ同時期に転職されたようで、その著書の中で、「お前は気が狂ったか?」に近いことを言われた、と書いている。それと比べると、今や良い意味・悪い意味の両方で、雇用の流動化が進み、転職自由の時代になったなぁ、という実感がする。

 

雇われる側にとっての自由が拡大したのも事実だが、雇う側も、全員の終身雇用を維持する余裕がなくなったというのも、紛れもない事実であろう。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.160(2010年01月18日発行)」に掲載されたものです。

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