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Employer's Voice

2010年6月7日

異文化の中の苦労とやりがい

SINGAPORE ORIENTAL MOTOR PTE LTD セールスマネージャー 末次 真樹 製造業

私は2008年夏にシンガポールに着任し、それ以前は台湾で4年ほど仕事をしていました。アジアでの売上アップと組織作りのために、現地社員に対し会社の考え方や仕事の進め方なども教えています。教えると言っても表面的なノウハウだけではありません。むしろ、その仕事の意味や根本にある考え方を理解してもらわなければ継続していくことができません。そのため、考え方や習慣も異なる環境の中、先輩から後輩に受け継いでいけるようなしっかりとした組織にするためには、どう教えていけばいいかと日々苦闘しています。

 

失敗や反省が尽きることはありませんが、その中でも台湾時代にやってしまった大失敗は今でも一番の教訓となっています。台湾で私と同じ年齢の現地スタッフがリーダーとして働いていたのですが、当時日本から赴任したての私は、自分のほうが彼よりも立場が上だという変な驕りがありました。ある日、彼の作成した報告書がリーダーとしてはあまりにもお粗末だったため、もっと頑張ってくれという想いと他のスタッフも今後に活かして欲しいという願いが重なり、全スタッフの前で問題点を列挙したことがありました。そうしたところ、彼はとてつもなく感情的になり、私も舐められてたまるかというつまらない意地を張ったため大喧嘩になったことがありました。この件は別室にて1対1で行っていれば恐らく問題なかったはずです。しかし部下の目の前で“面子(めんつ)”を失ったと感じた彼は感情むき出しで反抗してきたのでした。これは華僑特有の“面子”というものを全く理解していなかった私の大失敗でした。

 

シンガポールも華僑が多い国ですが、トップダウンで仕事を進めがちな台湾より、議論を重視する傾向にあると感じています。あるスタッフから“末次さんはときどき進め方が強引すぎる、もっと私の意見も聞いてほしい”と苦言を受けたことがあります。私としては議論を重ねて理由も述べた上で決定したつもりでしたが、彼には十分に理解できるまでの説明が足りなかったのだと深く反省したことがありました。 他にも共に仕事をしていると様々な違いがあり戸惑うことも多々あります。しかし日本でも海外でも共通しているのは道理や理由が理解、納得できれば、同じ目標に向かって共に邁進できるという点です。そして理解してもらえるかどうかは、伝えられる側の能力ではなく、むしろ伝える側の努力にかかっていると思います。言ったのに何故やらないのか?と憤ることもありますが、それは私が一方的に“言った”だけであり、それが相手には伝わっていない、理解してもらう私の努力が足りないのだと思っています。

 

当社では案件事例を他の部署でも共有したり、得意先情報として今後に活かすためにも報告書を重視している会社です。日本人の場合、上から言われるがまま無理やりでも書く(書かせられる)のですが、台湾やシンガポールの場合は注文を取ってくればそれでいいという考えが強く、なかなか浸透しません。報告書の意義やその効果を何回も繰り返し説明していたある日、スタッフの一人が「他拠点で作成された報告書が非常に役立ち、今回の案件を獲得することができました。末次さんに普段から言われていることが、今ようやく理解できました。」とやっと提出してきた報告書の最後に書いたことがありました。売上も上がらず、残業続きで精神的にもきつい状態でしたが、そのコメントを読んだときは、「やっと分かってくれたか、もう絶対に忘れるなよ!」とあまりの嬉しさに涙が込み上げてきました。

 

このように如何に人を育てるかという点で非常に苦労も多いのですが、採用に携わるときは他の考えを受け入れられる素直な心を持っている人、かつ自分の意見もしっかり主張でき議論を厭わない人と出会えればと思っています。当社がシンガポールの中の外国企業である以上、考え方や仕事の進め方が現地企業と異なってくる部分は出てきます。そういったときにお互いの意見をぶつけながら、納得できれば柔軟に対応できるかどうかが、一つの大きな要素になるためです。どうやってそのような人を見つけ出すかという点が一番難しいのですが、私の場合“目を見ながら会話ができ、笑顔が素敵な人”に魅力を感じます。というのも、そういう方は意見交換ができて性格が素直な方が多いと思っているからです。他に一発で見極める秘訣はないものかとも思いますが、今しばらくは笑顔の素敵なスタッフを採用していきたいと思います。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.168(2010年06月07日発行)」に掲載されたものです。

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