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2010年6月21日

ローカル人材活用に向けた想い

Sompo Japan Insurance (Singapore) Pte. Ltd. アシスタント・ジェネラル・マネージャー 梅田 英治 損害保険業

私がシンガポールに赴任し、約3年が経過する。東南アジア各地のスタッフと意見交換をし、当地でも採用活動に携わるうちに感じるようになった人材に関する考えを申し上げさせていただきたい。

1.現地法人経営とローカライゼーション

我々損害保険業にとっては人が最大の財産であり、海外拠点でも同様である。ローカルビジネスを拡大するうえで、ローカル人材の育成が喫緊の課題であると良く言われるが、当社においても既に2名のローカルのダイレクターが活躍している。日本人駐在員はこれまでの部門長としての立場から、序々にローカルマネージャーの補佐役にシフトしつつあるのが実情であるが、ただ単純にローカル人材の登用を進めていけば良いわけではない。営業や損害調査部門等で日系のお客様へのきめ細やかなサービスが必要な場合や、経理部門など連結決算の関係で日本の本社と密接な連携をとる必要がある場合等は、日本人を責任者にする方が適切なケースもある。

 

お客様の状況、社内の組織状況などを見極めながら、現地法人内の日本人とローカルの経営人材のポートフォリオを適切に調整していく必要がある。

2.コア人材の確保と定着のための当社の取り組み

当地ではジョブローテーションという概念があまり無く、人材は自らの業務拡大のため転職する傾向がある。また、経営層を志向する野心的な人材は日系企業には目に見えない「ガラスの天井」があると誤解し、退職する場合もある。日本とは違い退職者の補充は簡単ではなく、ローカル人材の定着は我々にとっては切実な問題である。

 

即効性のある解決策はないが、当社ではトップの指示のもと、以下のような愚直ながら着実な取組みを継続していく事が唯一の対応と認識している。

  1. 日本人、ローカルマネージャー双方の人材育成
    1. 将来の現地法人マネジメント候補人材育成のため、本社からの日本人トレイニーの受入を実施
    2. ローカルマネージャー層の育成のため、外部教育機関による集合マネジメント研修を実施
  2. 地域社会に貢献する魅力的な企業づくり
    1. シンガポール保険協会や金融監督庁主催のインターンシップやスカラーシッププログラムなどを通じた学生や新卒者の受入を実施
    2. 社員ボランティアによる孤児院への慰問活動実施等

これらの活動は単なる社員の保有知識やマインドの向上のみならず、「教わるだけではなく、自らが教える」プロセスを通じ、社員本人の理解をさらに深め、実践的な能力として定着させていく効果も期待している。

3.コミュニケーション

日常でスタッフと接していると様々な局面に遭遇するが、文化的差異と言うよりは、悩める中小企業が抱える共通の人材課題であるように感じられる。

 

例えば、「職責分離上、他部門との情報共有は不適切」という報告は、実は「他部門と仲が悪いから」ではないのか。「キャリア・パスを描くのは、上司の仕事である」と言われてムッとする前に「サポートを求めているのではないか」とも考え直してみる必要がある。

 

ところが、こうした一見「一癖ありそうな」人材の方が日系の中小企業に長く勤務し、地味ではあるが重要な日常業務を支えてくれる場合もある。彼らも、折角ローカルの業務運営を教えても駐在員は数年で入れ替わり、ゼロから同じことを繰り返す、というストレスを我慢してくれている。日系企業にとっては、有能な人材を起用するだけではなく、個性を持ったスタッフの成長を支援し、業務の中核を担って頂く事も重要ではないかと思う。

 

戦国武将の武田信玄は「人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり」と言ったそうだが、言葉や文化の壁を超えてチームワークを成立させるためには、「情け」即ち相手を理解しようとする共感能力が重要と考える。理解されれば、やらされ感がなく、高いモチベーションを保ち、共感してくれた相手に素直に従うのではないか。真理とは、洋の東西を問わず、普遍的なものではないかと感じずにはいられない。

 

コミュニケーションのあり方を再考する機会は今後とも訪れるであろう。それは私の共感能力が試されているという事でもあり、私の方が鍛えていただいているのだという感謝の念を忘れぬよう心がけて取り組んでいきたい。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.169(2010年06月21日発行)」に掲載されたものです。

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