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2010年7月5日

人的資源管理での6つめのフレームワーク

シスメックス アジア パシフィック Chief Operating Officer 松野 潔高 医療機器および診断用医薬品の製造販売

「光陰矢のごとし」とはよくいったもので、アジアパシフィック地域を統括するシンガポール現地法人へ赴任してから3年が経ちました。この機会に、人的資源管理の視点で実施してきた施策を振り返りたいと思います。

 

一般的に、人的資源管理のフレームワークは、「採用」、「配置」、「評価」、「報酬」、「能力開発」の5つとされていますが、6つめのフレームワークとしての「目標設定」に、過去3年間、重点を置いてきました。理論的に「評価」を実施するには、「目標設定」が予め必要となります。

 

赴任当初、アジアパシフィック地域での目標設定はなされていたのですが、設定根拠が不明確、かつ、地域メンバーへその目標を年初に1回だけ説明するという状況でした。そこで、年1回、地域メンバーが地域内の課題を抽出し、その課題から次年度の活動目標を設定するプロセスへ変更しました。これにより、今では、地域現地法人の中間管理職が、私へ地域目標への質問を行うまでに進歩しました。

 

また、「地域目標」から、「各現地法人の目標」、「各機能部門の目標」、「個人の目標」といった異なる経営レベルで「目標の分解」ができていませんでした。そこで、トップマネージメントが「目標の分解」を直接確認したことにより、組織と個人の目標が一貫したものとなりました。つまり、誰かがサボると組織の業績に反映されるようになりつつあります。

 

更には、定量的要素を含まない「目標」が頻発していました。そこで、外部研修機関が目標設定の研修を社員全員へ行い、かつ、その研修結果に基づき、トップマネージメントが「目標」に可能な限り定量的要素を含むよう変化させました。成功例は、診断用医薬品工場からの受注分への充足率というKPI(重要業績指標)を設定したことです。以前、工場は年度売上予算に基づく生産数量を目標としていました。しかし、この目標は、市場ニーズが年度売上予算より少なければ、在庫過多になるリスクを生みます。工場側には「目標を達成しないと自部門への評価が悪くなる。だから在庫になっても仕方ない」との認識まで生みました。そこで、生産量から、受注分への充足率に目標を変えることで、工場は市場動向を率先して聴取するまでにマインドセットが変わりました。

 

次に、「目標設定」が浸透し始めた頃、どの部署が目標に対して責任を持つかという議論が増えました。わが社は機能別組織なので、一つの目標を達成するには、複数部門の協力が不可欠ですが、みな責任を回避したいので、必要最低限の協力が横行するようになりました。例えば、在庫管理を強化するため、営業部門、サプライチェーン部門、経理部門とが協力して、在庫情報を共有し、課題を抽出し、解決策を打ち出す必要があったのですが、経理部門は、サプライチェーン部門が自ら在庫情報を知っているので、在庫管理強化には加わる必要がないと提案してきました。私からは経理面からの改善提案が不可欠と説得しましたが、聞く耳持たずといった具合でした。

 

そこで、「業務プロセスフローの明確化」にたどり着きました。つまり、主要業務フローで、どの部門が、どの順番で協力し、どの業務に対して責任を持ち、どうやって情報や課題を共有し、期限付きの解決策を決めるかを定めたのです。これにより、何か問題が発生すると、どの部門が怠けたのか明白になりました。(但し、業務プロセスは、挙げたらキリがないので、組織の状況に基づき、優先順位をつける必要があります。)

 

最後に、最も重要で、最もしんどいのが「目標の進捗確認」です。赴任当初、部下が目標の進捗報告を自動的に行うと思っていたのですが、待てども待てども来ません。聞くと、年2回の人事考課の際に進捗確認をするので、頻繁に進捗確認はやっていないとの回答でした。これでは、目標期限より大幅に遅延したらあきらめてやらなくなりますし、大きな壁にぶつかったら目標を達成する熱意が失せます。そこで、部下が毎週金曜日に週間進捗報告を共通フォーマットで提出し、翌月曜日に私が部下の進捗に基づき、質問して、改善案を共に考えるようにしています。まだ目に見えた成果は出ていませんが、必ず出ると信じています。“「目標設定」=「組織と個人とで一貫した目標」+「明確な業務プロセス」+「執拗な目標の進捗確認」”という図式で機能すると言えます。

 

弊社のアジアパシフィック地域の従業員数は300名ですが、邦人駐在員は3名だけです。日本人でなく、ナショナルスタッフを大勢起用して業績を伸ばすには、「目標設定」が不可欠であり、それが「人材の育成」へつながっていくと確信しています。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.170(2010年07月05日発行)」に掲載されたものです。

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