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Employer's Voice

2011年5月2日

日米星の雇用システムに見る今後の人材採用の姿

Mapletree Logistics Trust Management ダイレクター 植村大輔 業種:不動産投資/開発

私はMapletreeという総合不動産投資会社の物流施設部門で建設部長をしております。当社は倉庫、工場、オフィス、店舗等幅広い分野の建物を所有し、賃貸することで初期投資を回収するビジネスをアジア中に展開しています。VivoCityはその「代表作」です。シンガポールでビジネスを始めるにあたり事務所や工場を探している、という方がいらっしゃいましたら当社の物件をご紹介させていただきますのでご連絡ください。

 

私はこれまで、日系、米系、そしてシンガポール系と3つの異なる企業で仕事をしてまいりました。特に雇用システムということで言えば全く異なるもの体験しましたので、ここでは一般的な話として、また、あくまで個人の意見としてその違いを考えてみましょう。

 

最初は終身雇用の日本企業におりました。よほどのことがない限り解雇になる心配はないという安心感がある一方、それに安住して新しいことに果敢に挑戦したり、自分の目標に向かってスキルアップをしたりということができにくい状況でした。それに飽き足らず18年勤務したのち退職しましたが、その際「辞めるのはずるい」などという理解できないことを言う古い体質も残っていました。私自身もそうでしたが、辞める人は皆、退路を断って何があっても自己責任で対処するという決意を持って辞めるのです。「ずるい」なんてとんでもない発想です。

 

次に移った米系企業は、噂のとおり実力主義です。給料も業績によって大幅に変動します。私はかねてより米国で働きたいという夢を持っており、それに向け東京支社時代は必死に働き、4年経った時にサンフランシスコの本社に転勤する夢を実現できました。が、赴任して3ヵ月でリーマンショックの「直撃」を受けました。予定していたプロジェクトはすべて中止となり、結局10ヵ月でやむなくの帰国となりました。帰国しても仕事は無く、ついに解雇の憂き目を体験しました。ある日同じ部署の約10人が部屋に呼ばれ「A君とB君とC君はやめてもらうことになった」と社長に言われました。私もそのひとりだったわけです。

 

そこから悪夢のような日々が続きました。ヘッドハンターや求人サイトにアプローチしても仕事が見つからない毎日が何ヵ月も続きました。私は日系も外資も可能性を探っていましたが、自分なら求人条件に当てはまるといえるものが見つかるのは2週間に1回程度、しかもそのすべてが外資系で、日系は全くありませんでした。よく「日本の終身雇用は解雇の心配がないので良いシステムだ」と考える人がいますが、これは間違いということがよく判りました。解雇が少ない分、新しいことに目覚めて中途で挑戦しようとしてもチャンスが極めて限られている、それが終身雇用制の側面なのです。

 

そして7ヵ月の失業の末、就職できたのが今のMapletree、これも結局外資です。それまでシンガポールは、仕事はおろか旅行でも行ったことがない「処女地」でした。それでも部長級で雇ってくれる懐の深さには今でも感謝の気持ちが絶えません。その気持ちが良い意味の「忠誠心」につながっています。ただ、周囲を見ていると、「忠誠心」を感じて仕事をしている人ばかりではないように思います。「給料の良い別の仕事が見つかったのであと1ヵ月で辞めます!」ということをある日突然言ってきます。特にボーナスが払われる6月は要注意です。でも、彼らは給料のことを理由にするのは表向きの話であり、やはり自己のめざしていることをやりたいため、というのが大きな理由と感じます。言いかえれば、シンガポールは自己実現のために新しいことに挑戦できる社会でもあると感じます。

 

私の会社では年度末に来年度の採用計画を立て、中途でしかるべきポジションに増員する人数を業務計画と並行して決めていきます。年齢や学歴はあまり重要な要素ではありません。新卒はほとんどありません。一方、日本では日経新聞等に「主要企業の来年の採用計画」という表が載りますが、あれはすべて新規採用の数のみですね。なぜ中途採用の数字がないのでしょうか、いつも不思議に思います。

 

私は失業の経験もしましたが、それでも常に新鮮な気持ちで何かに挑戦できるシンガポールや米国の仕組みが好きです。日本経済が「失われた20年」から脱出するには、米星式の活力、流動性にあふれた雇用システムへのしなやかなシフトを望みます。そのためには法整備、雇用の受け皿の整備等取り組むべき課題は多くありますが、社会全体として、活力あるシステムをポジティブに取り入れていこうという個々人の意識改革も必要でしょう。この文章がその一助となれば幸いです。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.188(2011年05月02日発行)」に掲載されたものです。

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